月のうさぎと地上の雨男
 帰宅して歌帆と雫にからかわれた後、自室に戻った。

 渡はスマホを取り出し、宗輔に電話をかけた。


「当たってた。ありがと」

「いーえ。まー、本人のお気持ちはさておき、相性が良くないね」


 スマホの向こうで笑う宗輔に渡は肩をすくめた。


 ……細蟹家の能力は蜘蛛(くも)を使役するものだ。

 『細蟹』が蜘蛛の古い呼び名の一つだと、蟹沢(かにさわ)に教えられなければ気づけなかった。

 蜘蛛使いは昔から諜報(ちょうほう)の家系に仕えてきた。

 風間(かざま)を筆頭に、猿渡や蟹沢とも縁があるらしい。


 蜂須賀は、その名の通り蜂を使役する家系だ。蜘蛛を散らすことができるため、細蟹にとっては天敵とも言える家系で、昔から雨水家と付き合いがある。

 細蟹自身は分家の出で、諜報の家系という認識はあまりなさそうだし、本人の言うとおり家柄で渡に近づいたわけではなさそうだった。

 しかし、宗輔の言うとおり渡とは相性が悪い。

 同じ分家でも雨水本家の側近を務める渡一家に、諜報の家系の者が近づいて不審に思わないわけがない。

 しかも近づくときに、蜘蛛に渡を見張らせていた。

 その手の諜報を仕掛けておきながら、『ただの好意でした』では通らない。


「彼女からチョコはもらえた?」

「おかげさまで」

「いいなー、ホワイトデーどうすんの?」

「悩んでるんだよね」

「俺なら、一緒に山登って星見てイチャつく」

「なるほど?」


 宗輔の案に、渡は頷いた。

 凪からは


「もう少し考えさせて!」


 と言われていた。

 渡は通話を続けながら、スマホでホワイトデーのお返しを調べる。

 バレンタイン当日まで凪に心配をかけ、不安にもさせたため、ホワイトデーは気合いを入れて喜ばせたいと渡も思っていた。


「んー、確かに『ごはんに連れて行ってもらう』は人気らしいけど」

「だろー? そういう思い出作る系はいいと思うよ。まあ二人きりは難しいかもだけどさ」

「そうなんだよなあ」

「いいなー、俺もそういうことで悩みてえよ」


 宗輔は風間の跡取りだから、恋愛結婚は望めない。


「でも学生のうちくらいは、自由に女の子といちゃいちゃしたいなー!」


 とよく言っていた。

 その相手はなかなか見つからないらしいけど。


「まあ、本人と相談してみるよ」

「それがいい」




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