月のうさぎと地上の雨男
結局、ホワイトデーはダブルデートになった。
「なんでこんなことに?」
「ご、ごめんね渡くん……」
アウトドアウェアを身に着けた凪が、渡の隣で苦笑していた。
渡と凪の前を、テンションの高い宗輔と……凪の妹、綾が並んで歩いている。
凪にホワイトデーについて電話で聞いた際に、ふと宗輔の案を話すと凪が乗り気になり、近くで聞いていた綾が
「私も山登りしてみたいなあ」
と食いついた。
その後、宗輔に相談したところ
「素人だけだと大変だから、俺も付き合おうか」
と引き受けてくれたことで実現した。
凪の母親と雨水の頭領で相談し、いずれ婚約の予定でもあるため、月詠から情報の取り扱いについて釘を刺した上で風間家に公式に護衛を依頼した。
そのため渡には見えず気配も感じないが、周囲を風間の人間に取り囲まれての山登りだった。
彼らは普段から宗輔のサークル活動に付き合っている精鋭らしい。
すぐ後ろを猿渡と蟹沢が歩き、綾の斜め後ろには綾付きの護衛も付き添っていて、渡の想像するホワイトデーデートより、だいぶ物々しい雰囲気だった。
凪が楽しそうにしているので、まあいいかと渡は何も言わずに、ここまで山を登ってきた。
「わあ、いい眺めです!」
先を歩いていた綾が歓声を上げた。
その隣で、宗輔が飲み物と塩飴を用意する。
「こちらをどうぞ。思っているより疲れてますから、早めに水分補給をなさってください」
「ありがとうございます。……風間様はしっかりしていらっしゃいますのね」
「そうでもないですよ。山では自分のことは自分でしないといけませんからね」
「そうなんですね。……あの、またご一緒させていただいてもよろしいでしょうか? 楽しかったので」
綾が照れた顔で宗輔を見上げていた。
宗輔の方はいつもどおり、穏やかに微笑んで頷いていた。
「凪、君の妹はずいぶん宗輔に懐いたように見える」
「そうだね。あんなにしおらしいのは珍しいよ。……私がママにブチ切れられているときくらいかな」
「宗輔がどう思ってるかは、ぱっと見よくわかんないな」
「家の格的にはなくもないんだよね」
「まあね」
渡と凪もお茶を飲みながら、綾と宗輔の様子をのんびりうかがった。
渡としては、お目付け役だと思っていた綾が積極的に山を楽しみ、宗輔にも心を開いていたのは予想外だったが、不満そうにされるよりずっとよかった。
「まあ、宗輔は爽やかだし」
自分とは違う、という思いは飲み込んだ。
凪は塩飴を口にしながら、渡にもたれかかった。
「スポーツマンって感じだよね。風間家の方らしいけど」
「たしかに」
「綾の好みなのかな。知らなかった」
「だから俺は気に入られなかったのかな。それなら仕方ないか」
「綾と渡くんを取り合いたくないから、好みが違ってよかった」
渡が凪を見ると、やはりニコニコしながら宗輔と綾を見ていた。
二人は展望台で地図を見ながら、遠くに見える風景の地名や山の名前を調べている。
「渡くん、風が気持いいねえ」
「うん。ねえ凪。ホワイトデーのお返しなんだけど、これも受け取ってくれるかな」
渡は小箱を凪に差し出した。
凪は笑顔で受け取って小箱を開けた。
そして、目を丸くして黙り込んだ。
「ちゃんとしたのは、正式に婚約してからね」
「ありがとう、渡くん。嬉しい」
凪は小箱から指輪を取り上げた。
細いチェーンが付いていたので、凪はそれを首にかけた。
指輪には赤茶のマーブル色の石がついていた。
「それ、ムーアカイトっていう石なんだけど、『雨を呼ぶ石』とも呼ばれてるんだ。俺にできることなんて少ししかないけど、俺だと思って側に置いてほしい」
「肌身離さず身につけておくよ。今度、お揃いの指輪も用意するね」
「楽しみにしてる」
渡が顔を上げると、宗輔が綾の手を引いて展望台から降りてきた。
蟹沢と猿渡が近くの東屋にランチを広げている。
山の上はまだ寒いけど、空は高く澄んでいた。渡も凪の手を引いて、東屋へとエスコートした。
「なんでこんなことに?」
「ご、ごめんね渡くん……」
アウトドアウェアを身に着けた凪が、渡の隣で苦笑していた。
渡と凪の前を、テンションの高い宗輔と……凪の妹、綾が並んで歩いている。
凪にホワイトデーについて電話で聞いた際に、ふと宗輔の案を話すと凪が乗り気になり、近くで聞いていた綾が
「私も山登りしてみたいなあ」
と食いついた。
その後、宗輔に相談したところ
「素人だけだと大変だから、俺も付き合おうか」
と引き受けてくれたことで実現した。
凪の母親と雨水の頭領で相談し、いずれ婚約の予定でもあるため、月詠から情報の取り扱いについて釘を刺した上で風間家に公式に護衛を依頼した。
そのため渡には見えず気配も感じないが、周囲を風間の人間に取り囲まれての山登りだった。
彼らは普段から宗輔のサークル活動に付き合っている精鋭らしい。
すぐ後ろを猿渡と蟹沢が歩き、綾の斜め後ろには綾付きの護衛も付き添っていて、渡の想像するホワイトデーデートより、だいぶ物々しい雰囲気だった。
凪が楽しそうにしているので、まあいいかと渡は何も言わずに、ここまで山を登ってきた。
「わあ、いい眺めです!」
先を歩いていた綾が歓声を上げた。
その隣で、宗輔が飲み物と塩飴を用意する。
「こちらをどうぞ。思っているより疲れてますから、早めに水分補給をなさってください」
「ありがとうございます。……風間様はしっかりしていらっしゃいますのね」
「そうでもないですよ。山では自分のことは自分でしないといけませんからね」
「そうなんですね。……あの、またご一緒させていただいてもよろしいでしょうか? 楽しかったので」
綾が照れた顔で宗輔を見上げていた。
宗輔の方はいつもどおり、穏やかに微笑んで頷いていた。
「凪、君の妹はずいぶん宗輔に懐いたように見える」
「そうだね。あんなにしおらしいのは珍しいよ。……私がママにブチ切れられているときくらいかな」
「宗輔がどう思ってるかは、ぱっと見よくわかんないな」
「家の格的にはなくもないんだよね」
「まあね」
渡と凪もお茶を飲みながら、綾と宗輔の様子をのんびりうかがった。
渡としては、お目付け役だと思っていた綾が積極的に山を楽しみ、宗輔にも心を開いていたのは予想外だったが、不満そうにされるよりずっとよかった。
「まあ、宗輔は爽やかだし」
自分とは違う、という思いは飲み込んだ。
凪は塩飴を口にしながら、渡にもたれかかった。
「スポーツマンって感じだよね。風間家の方らしいけど」
「たしかに」
「綾の好みなのかな。知らなかった」
「だから俺は気に入られなかったのかな。それなら仕方ないか」
「綾と渡くんを取り合いたくないから、好みが違ってよかった」
渡が凪を見ると、やはりニコニコしながら宗輔と綾を見ていた。
二人は展望台で地図を見ながら、遠くに見える風景の地名や山の名前を調べている。
「渡くん、風が気持いいねえ」
「うん。ねえ凪。ホワイトデーのお返しなんだけど、これも受け取ってくれるかな」
渡は小箱を凪に差し出した。
凪は笑顔で受け取って小箱を開けた。
そして、目を丸くして黙り込んだ。
「ちゃんとしたのは、正式に婚約してからね」
「ありがとう、渡くん。嬉しい」
凪は小箱から指輪を取り上げた。
細いチェーンが付いていたので、凪はそれを首にかけた。
指輪には赤茶のマーブル色の石がついていた。
「それ、ムーアカイトっていう石なんだけど、『雨を呼ぶ石』とも呼ばれてるんだ。俺にできることなんて少ししかないけど、俺だと思って側に置いてほしい」
「肌身離さず身につけておくよ。今度、お揃いの指輪も用意するね」
「楽しみにしてる」
渡が顔を上げると、宗輔が綾の手を引いて展望台から降りてきた。
蟹沢と猿渡が近くの東屋にランチを広げている。
山の上はまだ寒いけど、空は高く澄んでいた。渡も凪の手を引いて、東屋へとエスコートした。