月のうさぎと地上の雨男
「まあ、わからんではないんだけど」


 宗輔が困った顔で笑った。


「そうだな。俺にも気持ちは理解できる。でも、やり方が間違っている」


 渡は分家とはいえ名家育ちだし、宗輔だって同様の家柄の跡取り息子だ。

 より格の高い家柄と婚姻関係を結びたい。政治的な有利を保ちたい。家系能力が薄まらないように、序列の高い家の者を娶りたい。

 その気持ちは二人にだってわかる。

 しかし、そういう点で言えば佳貴と渡に大きな差はないもちろん本家分家の違いはあれど、渡は頭領の弟一家だ。そして佳貴は知らないが、家系能力の扱い方やその習熟度だけを見れば、渡は佳貴に引けを取らない。


 おそらく子世代で最も家系能力の扱いに長けているのが(とおる)で、次に園佳(そのか)と渡、その下に(しずく)と佳貴が続く――それが美佳と(ゆずる)の見立てだった。(宗輔はそれを親を通じて知っていたが、黙っていた)


「まったくだ。つーか悠くんとやらは、俺と綾ちゃんがデートしてるの知ってるのかな」

「どうだろう? でも宗輔は本家の次期跡取りだし、悠くんも綾さんにはそこまで執着してなさそうだけどね」

「普通、姉ちゃんにもそこまで執着しないと思う」

「そうだよなあ。俺、姉さんっていないからわかんないけど」


 園佳は姉のような立場ではあるものの、歳が離れていることもあり、怖さもあって渡はあまり交流がなかった。

 透は園佳に懐いていて、本家に顔を出すたびに後をついて回っていたが、海外に行ってからはその姿も見なくなった。

 渡は、昨日透が園佳に向けていた眼差しを思い出す。

 あれは、親戚や姉弟に向ける類のものではなかった。

 それがいつからそうだったのか渡にはわからないけど、口を挟む気はなかった。



 その後、渡に凪から連絡は来たものの、彼女は落ち込んでいたり、泣き声でいることが多かった。


「ごめんなさい、パパと上手く話ができないの」

「そもそも通話も難しいんだろ? 仕方ないし、凪のせいじゃない。悪いのは俺の従兄だ」

「たまに通じても、音が途切れたりして……ここまで連絡が取れないことはなかったのに」


 その上、二人が直接会うことはできないでいた。

 凪の登下校には悠がぴったり付き、渡の下校にも佳貴が後を追ってくることが増えた。

 猿渡(さるわたり)蟹沢(かにさわ)から、


「どうか、状況を踏まえて行動されてください」

「お嬢様の身の安全をお考えくださいますよう」


 と渡も凪も言われてしまい、あまり無理はできなかったのだ。


「もうやだ……渡くん不足だよう」

「休みの日にちょっと家を出るのも無理そう?」

「無理。悠が張り付いてるし、猿渡からも自重してって言われちゃった」

「今は仕方ないな。月詠の頭領は、いつ地球にお戻りなの?」

「たぶん今月末。もしかしたら五月一日の朝になるかも。その場合は現地で合流だって」


 電話の向こうで泣き言をこぼす凪に、渡が言えることはなかった。

 佳貴と貴生のことを持ち出して、彼女をさらに不安にさせるわけにはいかない。

 少し話して電話を切った渡は自室からリビングに向かった。

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