月のうさぎと地上の雨男
「よお、辛気くさい顔してるなあ」


 渡に気づいた透が、ソファに座ったまま振り返った。


「どうやって佳貴兄さんに諦めてもらったもんか、全然思いつかないんだ」

「諦めないだろうね、きっと」


 透の隣でテレビを見ていた雫も顔を上げた。

 渡は雫の隣に座って、二人の方を見た。


「だよねえ。佳貴兄さん、凪になんの興味もないくせに」

「興味があるのは凪ちゃんの立場と自分の自尊心……救えないねえ」


 あはあは笑う透に、渡はため息をつくしかなかった。


「お見合いいつだっけ」


 テレビを見たまま、雫が聞いた。


「五月一日」

「それって、晴れの特異日じゃないよね」

「違う」

「お、なになに、やる?」


 透と雫が笑顔で顔を見合わせた。

 渡は嫌な予感がしたが、逃げる気にはならなかった。

 この二人は、なんだかんだ渡が困っていれば助けてくれることが多いから。

 ……ろくでもないいたずらに巻き込まれることもあるが、それはお互い様だ。


「何をする気なのさ」

「私たち三人で雨を降らせたら、かなりの豪雨になると思わない?」

「……まあ、そうだろうね」

「そしたら、ちょっとやそっとの足音なんてかき消えちゃうよな」

「うん……」

「宗輔くんに頼んだら、料亭の見取り図くらい出してくれるでしょ」


 渡は笑って、今回はどちらだろうかと考えた。

 透と雫は手助けのつもりだろうが、二人の表情はすっかりいたずらを企んでいる子どもだった。


「……見取り図はお友達価格だってさ」

「それ、綾さんから依頼してもらおう」


 透が言った。


「もちろんタダにはならないだろうけど、風間と月詠(つくよみ)でやり取りがあれば、何かあっても俺たちだけが怒られずに済む」

「そうかも。……そうかなあ」

「綾さんを通すなら、事前に月詠婦人に声をかけた方がいいかな」

「どうだろう、それだと『大人でなんとかするから』って言われちゃわない?」

「それはありそう」

「そんなこと言うなら、俺だって大人だろ」


 透が言うけど、渡と雫は「透が大人……?」と顔を見合わせて笑った。

 渡はスマホを取り出し、宗輔にビデオ電話をかけた。

 四人で頭を突き合わせて、相談する。

 こんな時ではあるが、子どもの頃に戻ったようで渡はけっこう楽しかった。

 これで凪を取り戻せるなら、言うことはない。

 渡に不安がないわけではなかった。

 無茶をすれば、月詠の頭領に嫌われる可能性もある。それでも、凪を諦めることだけはしたくなかった。


「兄さん、雫、宗輔」

「んー?」

「ありがとう、力を貸してくれて」

「あのね、そういうのは作戦が成功してからにして」

『そうだぞ。風間が手を貸してやってるんだ。抜かるなよ』

「……ありがと、みんな」


 渡は静かに頷き、拳を握りしめた。

 決戦は、五月一日の夕方だ。
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