月のうさぎと地上の雨男
 ――渡は凪に会いに行くことを前もって伝えていた。

 少しでも安心してほしかった。


『早く来てね』

「うん。必ず行くから、待ってて」


 それが、昨晩交わした最後の会話だった。

 三人は車に乗り込んだ。

 透が運転席、渡は助手席、雫は後部座席でそれぞれのスマホを覗き込んだ。

 宗輔(そうすけ)が提供した料亭の見取り図が表示されていた。


「雫は料亭裏の塀の近くで待機。ここなら濡れないし、いざって時に抜け出せるはずだ。ここで雨の威力を維持しておいてくれ。なんかあったら雨を強めて、すぐ逃げろ」

「わかった」

「俺は渡と部屋の外まで行く。揉めたら助けに入る」

「お願い。部屋の外に凪のボディガードがいるらしいから、俺が話すよ。たぶん、大丈夫」


 渡は凪からボディガードの配置を大まかに聞いていた。部屋の外に猿渡(さるわたり)、中には蟹沢(かにさわ)

 それ以外にも月詠、雨水(うすい)のそれぞれの頭領についたボディガードが多数いるはずだ。しかし、少人数でも話が分かる相手がいるのは心強かった。

 雨水の方のボディガードは顔見知りだけど、融通が利くかはわからない。

 貴生がつけているボディガードはおそらく渡を通さないだろう。


「大丈夫かなあ」


 雫が不安そうに言った。


「心配なら無理してついてこなくてもいいよ」


「ううん、行く。将来のお姉ちゃんだからね。ここで恩を売っておいて損はないよ」


 ちゃっかりした妹に笑いつつ、透はアクセルに脚をかけた。


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