総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
「一杯でこれ?」
天音くんは支えた手を離さないまま、私をバルコニーの椅子に座らせてくれた。
そして自分もその隣に、すとん、と腰を下ろす。
しばらくの間、沈黙が流れた。
夜景を見上げていた天音くんが、ぽつりと呟く。
「……叶兎と、なんかあったでしょ。」
「………………なんで、わかるの……?」
「目、真っ赤じゃん。…泣いた顔して酒飲んでる女の子がいたら、誰だってわかるよ。」
そう言った天音くんは、問い詰めるでもなく、ただそこにいてくれた。
「ずるい………いつも、そうやって…」
私の愚痴に、天音くんはふっと笑った。
「そんなのとっくに知ってるでしょ?」
思い出すのは、叶兎くんが正式に後継者に決まったばかりの頃のこと。
急に忙しくなった叶兎くんとすれ違って、私は一人、彼の隣に立つのに相応しいのはどんな人間なのか、普通の人間として生きるべきなのか、ずっと悩んでいた。
そんな時、私を元気づけてくれたのも天音くんだった。
『叶兎の隣が辛くなったら、俺のところにおいで』なんて、からかうみたいに、でも真剣な目で。
夜風がバルコニーを吹き抜けていく。