総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
【side叶兎】
バルコニーの重い扉を押し開けた瞬間、俺は自分の目を疑った。
視界に飛び込んできたのは、街灯の淡い光に照らされながら天音の肩に顔を埋めて泣いている胡桃の姿。
胡桃が他の男の肩で泣いてるとか、普段の俺なら迷わずその男を突き飛ばしてぶん殴っている。
というか今も拳が出そうになった。
けど…今。
そうさせてしまったのは、他でもない俺自身。
……怒りたくても、怒ることができなかった。
天音は俺とすれ違う一瞬、俺にしか聞こえないほどの低い声で呟いた。
「……次泣かせたら、分かってるよね?」
冷徹な警告だけを残して、天音はホールの中へと消えていく。
「…………。」
夜風が吹き抜けるバルコニーには、俺と胡桃の二人だけが取り残された。
言葉が出てこない。
「遅い」──胡桃の言ったその一言が、正論すぎて胸に刺さる。
会場中を必死に探し回ったなんて、何の言い訳にもならない。
ホールの中で上層部の奴らと話していた時間、この子は一人で酒を煽って泣いていた。
その事実が俺の胸を抉った。
「……ごめん。」
絞り出すように出たのは、飾り気のない謝罪だった。