総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ



胡桃の頬に残った涙の筋を、親指でそっと拭う。

そして、胡桃の前にゆっくりと膝をついた。


俺が胡桃を見上げる形になる。

…いつもと逆だ。



──さっき、バルコニーのドアの前で、俺は立ち尽くしていた。

ドアノブに掛けた手の向こうから、胡桃の震える声が漏れ聞こえてきたから。



“……わたしっ……神代さんみたいに、強くないし……みんなみたいに戦えないし……叶兎くんの、隣に……いていいのか、わかんなくて……“

“……無効化がなかったら、私なんて……ただの、人間で……“



その声に、心臓を鷲掴みにされたみたいになった。



「……。」



…赤羽叶兎という男には、これまで欲しいものがなかった。

幼い頃から、望んだものは簡単に転がり込んできた。


というより、魂を削ってまで手に入れたいと思うほどのものに、出会ったことがなかった。

だから、何かに飢えることも、渇望することも知らずに生きてきた。



胡桃に出会うまでは。



…初めて、失うことが怖くてたまらないと思った。

初めて…何かを、誰かを、狂おしいほどに欲しいと思った。



自分でも引くくらい、執着している自覚はある。


吸血鬼という種族は、人間に比べて独占欲や執着心が異常に強い。それは本能だ。

けど、俺のこれはもう、そんな言葉では片付けられないレベルに達している。



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