総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
男はキャスター付きの椅子をくるりと回転させ、ひび割れた天井を仰ぎ見た。
引き出しから取り出したのは、一枚の古い写真。
色褪せたその写真には、二人の人物が写っている。
片方は、既にこの世には存在しない人間だ。
「……契約者が現れる度に、過去の記録にズレが生じ始めるのも厄介なんだよな」
指先で写真の縁をなぞる仕草は、ひどく愛おしげで……
それでいて、抑えきれない苛立ちを孕んでいた。
「そのうち彼女には消えてもらわないと。でも、まだ利用価値がある。」
男は一度言葉を切ると、暗い思考を巡らせるように目を細めた。
「あぁ、それとも。彼を始末して、俺が新しい契約者になるのも悪くないかもしれない。……でも、やはりこの極上の『器』を壊してしまうのは、あまりに勿体なすぎるかな」
くつくつと、喉を鳴らすような笑い声が静まり返った部屋に反響した。
狂気と理性の境目が曖昧になった、聞く者の背筋を凍らせるような不快な響き。
男は注射器の一本を手に取りまじまじと見つめる。
中の液体が月光を受けて、まるで生き物のように不気味に光った。