総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
♢完璧な器
【side胡桃】
──本部屋敷。
朝から、応接室には冷え切った重い空気が停滞していた。
重厚なテーブルの中央に無造作に置かれた分厚い資料の束。
昨夜から今朝にかけて各地から次々と飛び込んできた、吸血鬼たちの「能力暴走事件」の発生マップが大きく広げられている。
時雨くんが届けてくれたその資料を、私と叶兎くんは息を呑んでまじまじと見つめていた。
「…七件。一晩で七件だよ。」
時雨くんが苛立ったように地図の一点を指で叩いた。
等高線のように散らばった赤い点。
発生した場所も時間もバラバラで、一見すると何の脈絡もないパニックのように思える。
「被害者は全員、能力の系統が違う。血統も地域も関連性なし。……なのに同じ日、同じ時間帯に起きてる。」
腕を組んで地図を見つめる叶兎くんの横顔は険しい。
「それと、被害者全員に共通する点がもう一つ。」
時雨くんがさらにもう一枚、無機質な紙を差し出した。
それは特殊警備隊の鑑識が、暴走した吸血鬼たちの遺体や負傷者からまとめた、極秘の検査結果。
「血液から、未知の物質が検出された。……それから、首や腕の血管付近に、何かを『注入』されたような、ごく小さな針跡が確認されている」
「……針跡?」
私が思わず聞き返すと、時雨くんは深刻な表情で深く頷いた。