総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
「俺の魅了、あの男に効かなかったじゃん?あれ結構ショックだったんだよね」
いつものように冗談めかして言おうとしているけど、声の端がわずかに震えていた。
「小さい頃からずっとこの力のせいで散々嫌な思いしてきたのにさ。いざって時に役に立たないなら、なんのために持ってんだよって」
天音くんが手すりを掴む指にギュッと力を込める。
金属が小さく軋む音が、静かなテラスに響いた。
その瞳は、まっすぐとどこまでも高い朝の空を睨みつけていて。
…泣いてはいないけど、その目の奥に滲んでいるのは怒りとも悔しさともつかない、もっと深い場所に溜まった「無力感」
そんな天音くんに、私はなんて声をかければ良いかわからなかった。
…人間からしたら吸血鬼はハイスペックで、誰もが完璧な存在に見えるけど。
でも、誰もが最初から望んでその力を持ったわけじゃない。
能力に振り回され、悩み、それでも自分の存在意義を見つけようとしているのはきっと…私と同じ。
「…そんなことない。きっとこれから、いくらでも使い道はある。天音くんにしか出来ないことが、きっとあるよ」
天音くんがかつて私を励ましてくれたみたいに、今度は私が彼の力になりたかった。
天音くんはしばらく黙っていたけど、やがてふっと笑みを漏らした。
「……胡桃っちに慰められると、なんかダメだな。余計カッコ悪くなっちゃう」
その声には、ほんの少しだけ柔らかさが戻っていた。
「……ありがと」
「…うん」
私は微笑んで頷いた。
「……よし。俺も寝るわ、夜に備えて。胡桃っちもちゃんと休みなよ?寝不足で倒れたらあとで叶兎に怒られんの俺らなんだから」
ひらひらと手を振って屋敷の中に消えていく。
その背中は、来た時よりも少しだけ真っ直ぐだった。