総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
腹の底から湧き上がる、どうしようもない飢え。
普段の空腹とは違う。
もっと根源的な、細胞の一つ一つが叫ぶような──吸血鬼が本能で血を求める、狂おしいほどの衝動。
「……は、……あ……」
目の前に男がいる。
白衣から覗く、無防備な白い首筋。
その薄い皮膚の下を流れるドクドクと脈打つ赤黒い液体が…嫌なほど鮮明に見えた。
……吸いたい。
そんな事を思ってしまった自分に嫌気が差して、必死に首を振った。
吸血鬼としての犬歯が異常なほど伸びてくるのが分かった。
口の中は、鉄の味がする。
噛み締めた唇の端から、自分の血が滴り落ちる。
男は首を少し傾けて、慈しむようににこりと笑った。
「僕の血飲んでみる?きっと気に入ると思うよ」
「黙れ……ッ、殺す、ぞ……っ」
頭の中で、何かの「蓋」が外れる音がする。
俺を俺たらしめている記憶が、ドロドロに溶けていく。
……っ胡桃……。
でも、胡桃の存在だけは消えなかった。
不思議なほど確かに、胸の真ん中に居座っている。
これだけはどんな薬物でも、どんな偽物の記憶でも、塗り潰させない。