総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
それから少しして、身支度を整えて2人で部屋を出た。
本部の敷地を抜け、外に出ると、また空気が変わる。
朝の光はやわらかく、街全体が静かに息をしているみたいだった。
石畳の道は少しひんやりしていて、古びた建物が規則正しく並ぶその景色は、日本にいるはずなのにどこか遠い異国に迷い込んだみたいだった。
普段暮らしていた日本の中に、こんなエリアがあったなんて。
本部への移動は車だったから、歩いて街を見るなんて初めてで。
視界に映るすべてが新鮮だ。
……叶兎くんは、こんな場所で生きてきたんだ。
そう思った瞬間、少しだけ彼との距離が縮まった気がして、勝手に嬉しくなる。
歩き出してすぐ、私はあることに気づいた。
すれ違う人たちの視線が、自然と叶兎くんに集まっていること。
…叶兎くんは、吸血鬼の中のトップに立つ人だ。
注目を集めるのも当然。
「叶兎様!」
「久しぶりだな!」
「叶兎くんまたうちの店寄ってってな〜」
声をかけられるたび、叶兎くんは軽く手を振ったり、短く言葉を返したりする。
気づけば、叶兎くんの手が自然に私の手を取っていた。
驚く間もなく指が絡まる。
あたたかくて、……離れないよって言われているみたいで。
「みんな優しいし、あったかい街なんだ。それに……おしゃれでしょ」
得意げにちらっと私を見るその横顔が、少しだけ子どもみたいで。
「ふふ、うん。すごく素敵」
そう答えながら、私はそっと手を握り返した。
——きっと、この街で過ごす一日は、
あとから振り返っても、大切な思い出になる。