総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
【side胡桃】
あの日から、数日が経った。
けれど、私たちの置かれた状況は遅々として進まず、完全に膠着状態に陥っていた。
あの不気味な廃工場は、私たちが戻った時にはすでに完全な空き殻と化していたらしい。
壁に残された生々しい弾痕と乾いた血痕だけが、あの夜の出来事が恐ろしい現実だったことを静かに証明している。
部屋にはデスクも椅子もそのまま残されていたけど…肝心の中身やデータは、何ひとつ残さずごっそりと抜き取られていた。
周辺の防犯カメラも調べたそうだけど、結果は全滅。
半径三キロ圏内にある十七台のカメラが、まるでプロの手によってあらかじめ計算されていたかのように、丁寧にすべて潰されていた。
これでは、犯人の逃走経路すら特定することができない。
……痕跡、ゼロ。
あんなに大きなことを仕掛けておいて、信じられない……。
叶兎くんも私も、おかげさまで体調はある程度まで戻っていた。
それでも屋敷の空気には日に日に焦りの色が滲み始めている。
それもそのはずで、ネットやSNSでの炎上は収まるどころか、悪意ある尾ひれがついて拡散され続けているからだ。
「吸血鬼の暴走事件もまだ続いているし……いい加減、街のみんなの不安も大きくなってるよね……」
ポツリと私が呟いた通り、街の空気はここ数日で目に見えて変わり始めていた。
夜間の外出を自粛する人が急増し、吸血鬼に対する不信感や恐怖心はこれまでになく膨れ上がっている。
それどころか、人間の住む区域へのゲートを完全に封鎖することを求める署名活動まで、現実のものとして始まってしまっていた。