総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
もう叶兎くんはいつも通りに戻っているし頭では大丈夫だと分かっていても、無意識のうちに身体が少し緊張してしまう。
重苦しい沈黙が、私たちの間に静かに降り積もっていった。
叶兎くんも……気づいてるよね。
二人きりになるのは、あの日以来初めて。
時雨くんも、春流くんもいない。
あの事件からというもの、私たちは意図的に二人きりになるシチュエーションを避けていた。
叶兎くんに投与された謎の合成血の効果が、いつ、どんな形で再び現れるか分からなかったから。
いつまたあのような衝動に飲み込まれるか分からない──その危険を考慮して常に一定の距離を保ち、周囲には必ず誰かが傍に就くことがここ数日、暗黙の了解として当たり前になっていたのだ。
前髪の隙間から覗く叶兎くんの瞳が、一瞬だけ、切なげに細められる。
「……そんなに、緊張しないで。」
叶兎くんの声は穏やかで、いつも通り優しい。
でも、決してこちらへ距離を詰めてこようとはしなかった。
私の座る位置から遠い反対側のパイプ椅子に腰を下ろすと、ゆっくりと背もたれに長い身体を預ける。
「何もしないから。」
私を安心させるためにそう言ってくれるけど…その言葉の裏には、自分自身に向けられた「戒め」があることを私は察していた。
あの時の叶兎くんが全く怖くなかったといえば嘘になる。
でも、心の底から「叶兎くんが怖い」と思ったわけじゃない。
…去年初めて襲われた時は、さすがに恐怖が勝ってたけど…今は、違う。