総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
……なんでかな。
叶兎くんにだったら、私の血も、心も、全部あげてしまってもいいって、本気で思えるからなのかな。
自分でもこの甘えた感情の正体がよく分からない。
今は叶兎くんが私のためにあえて遠い距離を取ってくれているけど。
それが、私は──寂しいと思ってしまう。
あの男が言っていた「合成血の効果は三日くらいで消える」という言葉の通り、すでに約束の期日は過ぎている。
実際、春流くんから見てもほとんど体内の状態は正常に戻っていると診断されていた。
だから……もう、そんなに遠くにいなくていいんだよ?
近づいても、大丈夫なのに。
私は言葉にできない想いを抱えたまま、黙って叶兎くんを見つめる。
わずか二メートル。
たったそれだけの距離なのに。
「……叶兎くん。」
私はパイプ椅子からゆっくりと立ち上がると、迷いのない足取りで目の前まで歩いていった。
一歩、また一歩と近づき、叶兎くんのすぐ目の前に立つ。
座っている叶兎くんを見下ろすと、少し驚いたように揺れる綺麗な赤い瞳と視線がしっかりと交わった。
「……もう、大丈夫だよ」
合成血の呪縛はもう消えた。
叶兎くんが私を襲う心配なんて、どこにもない。
だからもう、そんなに悲しい顔をして、遠くで我慢しなくていいんだよ。
……いつもみたいに、触れて欲しいよ。