総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
思い出すのは、ちょうど一年前の事。
まだ胡桃と契約を交わす前…あの時は秋斗が間一髪で止めに入ってくれなければ、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
そして、今回。
自分の意志ではないとはいえ、俺はまた同じように、胡桃に酷い事をしてしまった。
…でも、一年前のあの時と、昨夜の暴走には違いがあった。
去年のあれは、ただひたすらに血に飢えて、衝動を抑えられなかっただけ。
だけど今回は……それだけじゃない。
もっと醜くて恐ろしい何かが混ざっていたことに、俺は気づいてしまっていた。
俺は、胡桃のことになると……どうしても冷静でいられなくなる。
ここ最近、彼女に対する自分の感情が、どんどん重く、深く、底なしになっていくのを感じていた。
あの時、俺だけを見つめてくれた胡桃。
俺を助けるために、危険を顧みずあの場所に飛び込んできてくれた胡桃。
そう思ってしまった瞬間、自分が自分でなくなっていくみたいに、理性がバラバラに崩れ始めて。
…いま俺たちの間にあるこの縮まらない距離の正体は、申し訳なさなんかじゃない。
自分の内側にある、あまりにも重すぎる感情への恐怖だ。
……俺、ほんと、最低だ…。
あの時の自分を思い出すたびに、胃の底が氷を押し当てられたように冷たくなる。
華奢な首元を強く押さえつけたときの、手のひらの感触。
怯えに震える、大好きな潤んだ瞳。
それでも、俺を拒絶せずに必死に名前を呼んでくれた愛おしい声。