総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
私が叶兎くんの服の裾をぎゅっと掴むと、叶兎くんの身体がかすかに跳ねた。
背中に回された腕にさらにぐっと強い力がこもる。
もっと近くに。
お互いの間に隙間なんて一ミリも要らないとでも言うように強く抱きしめられて。
私は頬を寄せたまま、耳元に届くように優しく言葉を紡いだ。
「 ……大丈夫だよ。私はどこにもいかないし、叶兎くんのこと嫌いになったりなんて絶対にしないから」
心の底からの本音。
それを口にした瞬間、叶兎くんの腕がぴくりと強張った。
叶兎くんは何も言わず、私を締め付けていた腕の力がほんの少しだけ緩んで、代わりにすとんと私の肩口に自分の額を預けてくる。
……叶兎くんの髪、本当にさらさらで柔らかいな…。
こんなシリアスな状況で、なんて場違いなことを考えているんだろうと自分でも自覚はあった。
だけど、こうして叶兎くんを肌で感じていると、あの夜の恐怖なんて綺麗さっぱり消えて一ミリも怖くない。
叶兎くんが一人で抱え込んでいるものの全部を、私が理解してあげることはできないかもしれない。
でも、この数日間どれだけ自分自身を責めて苦しんでいたかは、言葉がなくても痛いほど伝わってきた。
私はそっと右手を持ち上げると、叶兎くんの綺麗な焦茶色の髪に触れた。
そして、小さな子供をあやすみたいに、優しく、ゆっくりと何度もその頭を撫でてあげる。
叶兎くんはそれからしばらくの間ピクリとも動かなかった。
肩に額を預けられたまま、じっと静かに抱きしめられている。