総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
朔の能力、洗脳──精神に直接潜り込んで相手を意のままに操るこの力は、一歩間違えればあまりにも危険な能力。
けれどきっと、使い方によっては切り札にもなる。
朔が静かに、通る声で問いかけた。
「僕の声が聞こえる?……君は暴走してしまう前、どこかで誰かに会ったよね。その時に見たこと、聞いたこと、覚えていることを全て僕に話して」
すると、それまで完全に生気を失っていた吸血鬼の身体が、びくりと大きく痙攣するように震えた。
焦点の合っていなかった濁った瞳が、吸い寄せられるようにしてゆっくりと朔の黄色い瞳へと向けられる。
朔の能力が、男の脳内に強制的に割り込んでいった証拠だった。
「……暗い、部屋……誰かが……俺に、血を……」
乾いた唇から漏れ出たのは、掠れた途切れ途切れの言葉。
やっぱり、記憶の大部分がひどく欠落している。
それは事前に聞いていた通りの状態だったけど、精神に干渉する朔の能力なら、脳の最深部に深く沈められた記憶の破片を力ずくで引き上げられる可能性があった。
朔はさらに目を細めて呼吸を整える。
より深く、より鋭く探るようにして、男の精神へと自身の異能をじわじわと注ぎ込んでいく。
「……注射……首に、打たれた……それから……何か、熱いものが……体の中に、入ってきて……っ」
「その人は、どんな人だった? 顔は覚えてる?」
「眼鏡……白衣を着てた……。楽しそうに、笑って……た……」
その言葉を聞いた瞬間、朔が一瞬だけ視線を動かし、後ろに立つ叶兎くんを振り返った。