総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
「待って、なんか勘違いしてる。」
先に口を開いたのは朔だった。
「僕は何もしてないよ、ナンパされてたから、追い払っただけ」
……でも。
叶兎くんの視線は、まだ緩まない。
「1人で待ってたら声かけられて……困ってたところに、たまたま朔が来てくれたの」
ほんの一瞬。
叶兎くんの目が、私の表情を確かめるみたいにじっと揺れる。
やがて、叶兎くんはふっと小さく息を吐いた。
張りつめていた肩の力が、ほんのわずかに抜ける。
「……そう。ありがとう、朔」
どうやら警戒は解いてくれたっぽい…?
叶兎くんは多分、まだ朔を“信用”していない。
でも、“ちゃんと仕事をしている仲間”としては、認めている。
「あー…。じゃ、パトロール戻るね。仕事中だし」
朔は軽く肩をすくめて、通りの方を指した。
そのまま歩き出そうとする背中に、思わず声が出る。
「…朔!」
「?」
「その……元気そうで、良かった!」
ずっと。
心のどこかに引っかかっていたから。
朔は一瞬だけ目を丸くしてから、ふっと笑った。
「…くーちゃんも、また笑顔が見れてよかった」
柔らかい声で、言って去っていく。
黒いコートの裾が街の人波に溶けていって、やがて見えなくなった。