総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
【天音side】
同時刻、特殊警備隊本部・資料室。
「……ねぇ、これ全部調べんの?」
目の前に積み上げられた、分厚いファイルの山。
それを見上げた瞬間、俺は盛大にため息を吐き出した。
椅子の背もたれに体重を預け、ギシギシと不快な音を立てて前後に揺らしながらデスクの向かい側に座る叶兎をちらりと盗み見る。
「特警の資料も調べるって言ったの天音じゃん」
叶兎は視線すらこちらに向けず、淡々と冷淡な声で返してきた。
「いや、言ったけどさぁ……量がおかしくない?」
言い出したのは俺だ。
だけど、この量を見たら誰だって弱音の一つや二つ吐きたくなる。
現在俺と叶兎は同じデスクを挟んで、吸血鬼暴走事件の主犯である『卯月要』に関する資料を片っ端から漁っていた。
警備隊が独自に管理する特秘データベースから、この街の医師や病院の情報、過去数十年の未解決事件の捜査記録にいたるまで、調べられるものはすべて。
でも、どこにも「卯月要」という名前は見当たらない。
「……天音。そっちの棚、もう終わった?」
しばらくして、叶兎が静かに顔を上げて聞いてきた。
「うん。…にしてもこの資料、一部の古い記録だけごっそり抜けてる」
俺はインデックスの付箋をファイルに貼りながら、短く報告する。
同じような不自然な空白が、他のファイルでも多発していた。
ある年を境に、区切りごとにぷつりと記録が途切れているのだ。