総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅱ
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学園を後にして、吸血鬼の街へ戻ってきた。
門をくぐる前に私は小さく息を吸い込む。
胸の奥に溜まっていた緊張を、ゆっくり吐き出すみたいに。
……今日からここに住むんだ。
何度見ても、この場所は圧倒される。
人間と吸血鬼──二つの世界を束ねる中心。
本部と呼ばれるこの館は、街のどこから見ても異質で、威厳があって、少しだけ近寄りがたい。
この敷地の中には建物が二つあって、私達やメイドさん達が住む居住用の塔と、主に仕事をする本館。
一応本館の方にも居住スペースはあって、私の両親や時雨くんは今はそっちに住んでいるらしい。
叶兎くんの後継者としての手続きでその付き添いとして何度か来たことはあるけど、ここに足を踏み入れるたび、背筋が自然と伸びた。
敷地内へ一歩足を踏み入れた瞬間、整然と並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。
その光景に、思わず瞬きをする。
White Lillyのアジトに初めて行った時もこんなことあったな…。
そして執事服に身を包んだ男性が、すぐに叶兎くんの隣へと歩み寄った。
「お帰りなさいませ、叶兎様。お待ちしておりました」
慣れた様子で私と叶兎くんの荷物を受け取り、他の執事へ静かに指示を飛ばしていく。
叶兎くんはしばらく業務連絡で話し込んでいて。
その横顔を見ながら私はぼんやりとその様子を眺めていると──
「胡桃様!」
聞き覚えのある声に、思わず振り向く。
「……あ!」
以前叶兎くんと本部に来た時、何度か声をかけてくれたメイドさんだった。
茶色の髪を高い位置で結んだポニーテール。
私より少し背が高くて、明るい笑顔を向けてくれる。
あの頃は叶兎くんが膨大な手続きに追われていて、ひとり手持ち無沙汰になっていた私の話し相手になってくれた。