箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 私はそのチームに在籍するものの仕事の内容は雑務がほとんどだ。開発企画部・国内戦略チームの言わば雑用係といえる。

 競合調査のデータをまとめたり、 国内の高級ホテルやリゾート地の宿泊価格、サービス内容、利用者の口コミなどをネットや雑誌から集めて比較表を作ったり。会議の前には資料の準備や会議室を用意したりの下準備でバタバタする。戦略会議にだって一応は同席する。議事録を務めたりもする日には、内容を理解するよりもついて行くので必死だ。

 それでも毎日が充実しているのは、楽しいから。

 与えられた場所で、仕事が出来ること。出来ることはまだまだ少なく拙いものだけれど、積み重ねていく実感。出来なかったことができる喜び。聞き取れなかったあらゆるものが自然と理解できるようになる瞬間。そんな日々が私をよりワクワクさせた。

そして――。

「巳波さん」

「はい」

 名前を呼んでもらえること。

「悪いんだけどさ、この間まとめてくれた○○ホテルのスクラップとリサーチデータ持って来てくれる?」

 ミーティングルームから顔を出した玄野さんに呼びかけられて急いで席を立った。数冊のスクラップブックを持ち部屋の扉を開けようとしたら勢いよく扉が開かれた。

「わ!」

「おっと、ごめん。大丈夫?」

 思わずブックを落としかけたがセーフ。それでも腕で抱えるようにして持ったブックを身体ごと支えられた。

「ごめん、俺がいきなり開けたから」

「いい、いいえ!」

「だから一気に持ちすぎなんだよ。慌てなくていいのに」

「あ、はい。ごめんなさい」

 フッと笑われて腕からブックを抜き取られる。

 ――あ……。

 なにも落ち込むことなんかない。スクラップブックを持って来いと言われただけだ、私はこれでお役御免……そう思って少し視線を落としかけたら玄野さんは言う。

「入って待ってて?」

「え?」

「ん? 待ってて」

 そう言って私の背中をトンッと押すと部屋の中に入れられてしまった。ミーティングルームの中にひとり、テーブルには資料とパソコンが広がったままでほかに誰もいない。

 ――待つの?

 そう思って立ちすくんでいたら扉が開いた。

「ん? どうした?」

「えっと、あの……私はなにを?」

「なにって、まとめたの巳波さんだろ? リサーチ結果説明して?」

 そんなことを求められると思わなかった私は息を呑んだが、どうしようもないほど胸が高揚していた。
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