箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 玄野さんの表情、仕草にドキドキする私がいる。

 小さく喉を鳴らして笑う表情に、無造作に捲り上げられたシャツの袖から覗く腕にクラッときた。

 これは色香に当てられたのだろうか? そう思うほど玄野さんから放たれる大人の雰囲気。色気は男の人にもあるのだと知った。

「ほら、お喋り終了。お姫様の初体験、冷めないうちに食お」
 
 タイミングよく運ばれてきたラーメンを受け取ってくれて、私の前にスッと丼を押しやってくれる。

「美味しそう……!」

「お口に合うかな?」

「これが別の惑星の食べ物?」

「こら、デカい声で言うな」

 ふたりでそんなことを言いながら、肩を並べてこっそり笑い合った。カウンター席の狭さが、今はふたりの間に流れる空気を特別にしている。私はそっと割り箸を手に取り、まずは黄金色の脂がキラキラと輝くスープを一口、レンゲですくって口に運んだ。

「……っ!」

 衝撃だった。
 濃厚で、どっしりと力強い旨味。ガツンと鼻を抜けるニンニクと醤油の香りが、味覚のすべてを支配していく。

「どう?」

「美味しい……!」

「それは良かった」
 
 夢中で麺を啜ると、喉を通り抜ける熱い感触が心地よい。大きなレンゲをぎこちなく持ちつつ、そっとスープを掬い上げる。口の中いっぱいに広がる濃厚なスープ、油も濃いけれどどうしてかくどくないのはなぜだろう。食べたことのない味に身体がもっとと求めるようで、私は玄野さんに構うことなく夢中で食べすすめてしまった。ふと、視線を感じて横を向くと玄野さんにが自分の箸を止めて、私の横顔をじっと見つめていた。
 
「……なにか?」

「いや。そんなにうまいのかなぁーって」

「とても美味しいです。私、こういうこってりしたの好きなんだなって初めて知りました」

「へぇ?」

「自分の好きって思うもの、もっとあるんだろうな……」

 それは無意識に、スープを見つめながらぽつりとこぼしてしまった言葉だった。
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