箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 私は勝手に決められた場所でその色に染められて溶け込んでいく。

 流されるでもない、そこに合うように、ただ泳いでいくんだ。大事に守られてその波に逆らえることはない。とろりとしたスープの中に絡む麺をお箸で摘み、ゆらゆらと揺らしながらぼんやりとしてしまった。

「探せばいいんじゃない?」

「……え?」

 玄野さんは少しだけ目を細め、慈しむような、それでいてどこか切ないような眼差しで私を見ている。その瞳の奥に浮かぶ憂いの色に胸が締め付けられた。
 
「行きたい場所があったらさ、また付き合ってやるよ」

「え?」

「巳波さん、すげーしょぼいことでも喜んでくれそう」

 フッと笑いながらそんな風に言われてちょっとだけムッとしてしまう。

「しょぼいって……これ、しょぼいこと?」

「しょぼい」

「……」
 
 ――私には、特別で宝物にしたいような時間だけど……。

 そんなことはもちろん言葉には出来ないけれど、胸の中で愚痴りつつやっぱり麺をゆらゆらと揺らしていたら頭をポンッと撫でられた。

「え?」

「こんなことで喜ぶなら、どんなとこでも連れてってやりたいって思ったの」

 ――え。

「遊んでないで食いな? 伸びるぞ」

「あ、は、はい……!」
 
 玄野さんは少し乱暴にそんな風に言って、豪快に麺を啜り始めた。

 狭いカウンター席、触れ合う肩の温度と、充満する熱気。
 高級レストランの静寂よりも、今の私にはこの賑やかな喧騒がどんな音楽よりも愛おしく感じられる。

 普段とは違う距離感で玄野さんの存在を強く感じて、私の胸の鼓動はずっと高鳴り続けていた。
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