箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
episode3...夢の終わり、切ない現実
 あの日、ラーメン屋で玄野さんと肩を並べて笑い合ってから、私の世界は確実に色を変えた。

 出社する足取りは以前よりずっと軽く、デスクに向かう背筋も自然と伸びる。ただ「ここにいればいい」と言われてきた箱入り娘の私が、今は一人のビジネスパーソンとして地に足をつけている。そして、玄野さんという人の隣に立てる自分になりたいと心から願っている。

 玄野さんにかけてもらえた言葉たちが、私を外の世界へ踏み出すための免罪符のようで。

 これまでの私は、与えられるものを享受するだけだった。思いの丈をこぼせず、顔色と周りからの視線を気にしてばかりで本当に望むことは言えずにいた。

 けれど今は違う。

 自ら考え、選び、提案したいと思える。それを今この仕事でこそやってみたいとまで思えた。そしてタイミングよく、開発リゾートに用意するアメニティ選定プロジェクトがはじまり、グループ内で企画書を提案できるチャンスがやってきたのだ。
 
 私は、自分がこれまで「本物」に触れてきた経験を、初めて自分の武器として使えるかもしれないと自信につなげ、アメニティの中でも必要不可欠なタオルに注目することにした。

 いろいろ候補を絞りだしたが、私が選んだのは一軒の老舗メーカーが作る最高級タオル。希少な超長綿を使い、熟練の職人が時間をかけて織り上げる……それは、私が幼い頃から肌の一部のように慣れ親しんできたものでもあった。

 ――一番肌触りも吸収性もいいと思うのよね。

 肌に触れるものは心地よいものがいい。ホテルという非現実で特別な場所だからこそ、よりよい質感を求めるのは当然ではないか。それこそ「おもてなし」精神なのでは?
 
「これこそが、お客様に提供すべき安らぎにつながると思います」
 
 私はそう胸を張って企画書に記載し提出した。
 自分の情熱がきっと通じるはずだ、そんな風に驚くほど自信を持ち、信じて疑わなかった。
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