箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
一晩泣いて、心の整理と覚悟を決めた私は玄野さんの出社をオフィス前で待ち伏せた。玄野さんの出社はいつも早い。人が来る誰よりも前に出社していることは有名だから。
――それだけ真面目で仕事に真剣な人。
だからこそ、今回与えられた役目だって真面目に向き合って実行していてくれていたのだろう。
右も左もわからない箱入り娘に丁寧に指導して成長させること。モチベーションを上げさせて自信をつけて仕事の成功体験までさせる。満足させられたらお役御免……きっとパパにそんな風に指示されているに違いない。
そして玄野本家の花嫁として迎え入れるための準備がなされている。
私の知らないところで、そんな周到で不条理な外堀が埋められていた。
「巳波さん?」
呼びかけられてハッとした。顔を上げたらそこには今思い浮かべていた人が立ち止まってくれていた。
「おはよう……ございます」
「……おはよう」
玄野さんの声が堅い。私の顔を見てのせいか、この泣き腫らしたあとだから誤魔化せないか。腫れた目元は冷やして寝てもどうしたって浮腫んだままだから。
「どうした? なんかあった?」
「……」
気遣うような優しい声に喉奥が詰まる。言葉を吐き出したくても胸が痛んでうまく声にならない。そんな私を見つめる玄野さんは息をひそめて待っていてくれたのだが、ふいに腕を掴まれた。
「え……」
「ちょっとここじゃ……人が来る。あっち、行こう」
あっち、と指さされたのはオフィス裏の路地の方で。外観周りに植えられた植物たちがいい目隠しになってくれる。
――触れてくれる手が、あったかい……。
その熱を感じるだけでまた泣きそうだった。この手はもう私に触れることはないのだろう。髪の毛に触れてくれた手が、バスの揺れから支えてくれた手が、今こうして誰にも触れられないようにとかくまおうとしてくれる手は……私から離されていく。
――それだけ真面目で仕事に真剣な人。
だからこそ、今回与えられた役目だって真面目に向き合って実行していてくれていたのだろう。
右も左もわからない箱入り娘に丁寧に指導して成長させること。モチベーションを上げさせて自信をつけて仕事の成功体験までさせる。満足させられたらお役御免……きっとパパにそんな風に指示されているに違いない。
そして玄野本家の花嫁として迎え入れるための準備がなされている。
私の知らないところで、そんな周到で不条理な外堀が埋められていた。
「巳波さん?」
呼びかけられてハッとした。顔を上げたらそこには今思い浮かべていた人が立ち止まってくれていた。
「おはよう……ございます」
「……おはよう」
玄野さんの声が堅い。私の顔を見てのせいか、この泣き腫らしたあとだから誤魔化せないか。腫れた目元は冷やして寝てもどうしたって浮腫んだままだから。
「どうした? なんかあった?」
「……」
気遣うような優しい声に喉奥が詰まる。言葉を吐き出したくても胸が痛んでうまく声にならない。そんな私を見つめる玄野さんは息をひそめて待っていてくれたのだが、ふいに腕を掴まれた。
「え……」
「ちょっとここじゃ……人が来る。あっち、行こう」
あっち、と指さされたのはオフィス裏の路地の方で。外観周りに植えられた植物たちがいい目隠しになってくれる。
――触れてくれる手が、あったかい……。
その熱を感じるだけでまた泣きそうだった。この手はもう私に触れることはないのだろう。髪の毛に触れてくれた手が、バスの揺れから支えてくれた手が、今こうして誰にも触れられないようにとかくまおうとしてくれる手は……私から離されていく。