箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 人目から避けた場所は静かで少しひんやりとしている。陰になって自分の表情も隠せるかもしれない。それにどこかホッとした。今、玄野さんの顔を正面から見る勇気も見られる勇気だってないのだから。

「どうした?」

 そう問いかけてくれる玄野さんに私は言葉を選ばずに尋ねる。

「……特別助成金ってなんですか?」

 いきなりその言葉を言えば玄野さんが息を呑んだ。

「すみませんでした。馬鹿みたいな企画を通してしまって、私何も知らずちゃんと下調べもしないで……玄野さんにとんだご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」

「巳波さん、それは……」

「いろいろ、気遣わせてすみませんでした」

 そう言えばまた息を呑む。いろいろ、そう告げた言葉で玄野さんが察した気がした。だから私は勢いのまま口にした。

「玄野さんは知っていたんですよね? 私が遠縁の親戚ではなく、巳波の一人娘であることを」

「……」

「知っていて、ずっと支えてくださっていたんですね」

 ずっと、ずっとだ。あの日出会った瞬間から、私たちの関係はもう決まっていた。
 恋なんか、していい相手じゃなかった。

「本当にご迷惑をおかけしました。申し訳ございません」

 頭を下げることしかできない私に、玄野さんは慌てたような声をあげる。

「待って、少し話をさせてほしい。迷惑をかけられたなんて思っていない!」

 そんな風に言ってくれるが胸が苦しくなるばかりだ。私は首を左右に激しく振って玄野さんの言葉を遮ってしまう。

「私の我儘に付き合わせました! お仕事を、私のままごとみたいな遊びに……恥ずかしくて、もう……情けなくてっ」

「巳波さん!」

「もう……勘違いしたくないんです。仕事だけじゃない、自分の気持ちだって……私には、夢見ることも叶えることもできないって、わかったから」

 好きな人ができても、その想いを伝えることさえ許されない。込み上げる慟哭を必死に抑え込み、私は枯れた声で笑ってみせた。

「もう、充分です。玄野さんがいっぱい、叶えてくれたから。本物の仕事みたいに自信を持たせてくれて、優しくしてくれて。それだけでもう充分だから。だから私はもう、いいんです」

 ――これ以上、私に夢を見させないで。
 
 言葉にできない悲鳴を背負い、私は凍りついたように動かない玄野さんを置いて背を向けて走り出した。ボロボロになった心も顔も何ももう触れられたくなかった。

 夢を抱いて踏み出した世界は自分の腕では抱えきれないほど広いものだと思っていた。でも結局、私は鳥籠の中から何ひとつ出られていなかった。外の世界だと思っていた場所も、巨大な籠の中に過ぎなかったのだ。
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