箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 私がいなくなっても、会社は……社会は何事もなく回っていく。そんなことはわかっていても、いざ現実に突きつけられると自分の無力さを感じて虚しさが募る。

 玄野さんだって、今日もなにも変わらず完璧に仕事をこなしていることだろう。自分がいかにいなくてもいい存在だったのか、何も変わらない私の暮らしがよりその現実を冷酷に突きつけてくるのだ。
 
 それからはお見合いの準備で勝手に時間が溶けていく。
 エステ、衣装合わせ、立ち居振る舞いの再確認。仕事であれほど苦労した他人の期待に応えることが、ここでは息をするよりも簡単に、私の意志を無視して進んでいく。

 あんなに望んだはずの自分らしさを、もう誰も求めてはくれない。

 選ばせてもらえているかのようで、準備されたものを選ぶのは本当に自分が選んだと言えるのだろうか。

 私に似合うものを選んでくれて最高品を与えられる。幸せだ、そんなことを望んで誰もがしてもらえることではない。そんなことは嫌ほどわかっているのだ、わかっているのに。

「そろそろお昼の時間ですね。なにか食べたいものはありますか?」

「……ラーメン」

「はい?」

「ううん、軽いもの。パッと食べられるものがいいな」

 私はそう笑顔で返した。
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