箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 貴政さんと胸をときめかせるような時間を過ごせる日などくるのだろうか。

 そしてかつて胸をときめかせた相手と今度は家族となって顔を合わすことになるのだ。それを想像するだけで、私の胸は激しく締めつけられ、苦しくなるばかりだった。

「はぁ……緊張する」

 いきなりふたりで会うことになるとは思っていなかった私は思いのほか緊張している。写真はママに何度も見せられていたので顔は分かっている。年齢はやはり私より少し離れた方だ。

 玄野貴政さんの経歴は、めまいがするほど完璧だった。年齢は32歳。フロンティア・ホールディングスの常務執行役員という若さもさることながら、経営戦略の全権を握る本部長という肩書きを担っていた。それは貴政さんが単なる創業家の長男ではなく、企業側に立ち実際に動かしている実権者であることを示している。

 ――でもあんまり顔は似てなかったんだよね。

 弟である玄野さんは、誰からも好感を得そうな爽やかなイケメンで。笑うと人懐っこい笑顔でちょっと可愛い。仕事中にふと見せる、少しだけ幼さの残るその笑顔が、私はたまらなく好きだった。

 一方、その5歳上の兄である貴政さんは、冷たげでクールな印象の人だ。年齢相応の、つけ入る隙のない大人びた雰囲気。貴政さんの横に並ぶ女性はもっと綺麗で華やかな人が似合うと思う。きっと23歳の私みたいな小娘に婿入りするなんて本当は望んでなどいない気がする。だから貴政さんにとってのこの結婚は、ただの義務でしかないだろう。

「……元気かなぁ」

 そんなことをぽつりとこぼしてしまう。
 今から私は心の中で思い浮かべる人とは別の人と結婚するのに。その不誠実な心に罪悪感を抱いてしまう。でも無理だ。

 だって……。

 私の心はなにひとつとして、玄野さんのことを忘れてなどいないのだから。

 鼻の奥がツンッとしてなんだか泣きそうになったが、溢れてきそうないろんなものを必死で吞み込んだ時だ。

「巳波佳乃さん」

 横から声を掛けられてハッとして顔を上げたら目を見開いた。

「……え」
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