箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 彼女がまとめるスクラップブックはとても丁寧にまとめられている。写真も豊富でそのホテルの良さや売りを細かに記載していた。よく調べられている、それが見たらわかるから単純に好感が上がった。仕事に取り組む姿勢から後輩として、これからも一緒にやっていけたらいいな……そんな呑気な気持ちをすぐに打ち消した。

 ――馬鹿か。彼女はこんな仕事は腰掛けにすぎないんだよ。

 ふとした時にそばにいる未来を考えてしまって、その度自分の思考を振り切っていた。それくらい好感度がいい彼女。後輩として、人として可愛い子になってくる。それはあまりいい感情とはいえない。だって彼女は俺の……義理の姉になる人なんだから。

 ――貴政の嫁になるのか……。

 それを思うと胸が痛んだ。その気持ちは……同情に近い。

 野心家でドライな貴政。自分の利益になることを最優先するような男、だからこそ経営者にも向いているし玄野のトップとして認められている。
 きっと巳波財閥もとりまとめるだけの力も持っているだろう。そんな男と結婚したら将来は安泰かもしれない。

 でも――。

 貴政は恋愛するような情に熱いタイプの男でもない。これは完全なる政略結婚、愛のない結婚が目に見えている。巳波財閥という権力欲しさに、貴政の思い描く未来を作るための布石に過ぎないと。そんな相手と結婚するには彼女は若すぎて、そしてピュアすぎる気がした。

「バス……ありがとうございました」

 結局下車駅を通過して一駅先で降りた俺たち。歩く道すがら、彼女は頬を染めてそう言った。

「歩かせてお礼言われることもないけど」

 少し照れ隠しもあった。自分でも少しキザなことをした気がしていた。そんなそっけなく答えた俺に彼女は静かに首を左右に振る。

「いいえ。自分で降りる駅を決められるって……素敵なことだなって思いました」

「……」

「目的地はあっても、変えられるんだなって」

 変えられないものがある。
 思いはあってもそれを行動に移すことさえ許されない現実。彼女はそんな狭い世界で生きているのか。

 貴政との結婚もきっと彼女が望むことではない。それこそ知らされていないのでは? そう思った気持ちが決定的になるのはそのあとこぼされた言葉を耳にしたからだ。

「バスでデートとか、したいです」

 夢や憧れが、彼女の中でたくさん育まれている。それはこの社会にでたからこそ芽生えている気がした。真面目な姿勢が、謙虚に向き合う態度が……一生懸命なのはそれだけ今が楽しいのかと。

 これは遊びではなく、彼女は真剣に社会人として働きたいと志を持って勤めているのだと気づいてしまった。

 それから芽生えだす罪悪感。俺は……彼女に嘘をついている。彼女の存在に気づいて気づかぬフリをして、彼女の中で生まれ出す夢や希望を摘むための手助けをしているのだ。

 彼女の知らぬところで、貴政との見合い話も着々と進められていた。
 彼女はこれをいつ知らされるのか、そして知らされた時……彼女は俺の前から姿を消して、次に出会うときは婚約者の弟として再会することになるのだ。

 そして事件は起きた。

 彼女の夢が破られるとき、シンデレラの魔法の時間が解けるように、彼女に現実を突きつけられるときが来る。
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