箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 ――なにそれ。

「働いちゃダメなの……?」

 普通のことに憧れている。私はずっと、普通のことに憧れてきた。ひとりで出かけて行きたい場所に自由に行って、誰の目も気にせず時間に縛られないような暮らしをしてみたい。

「一人暮らししたいなんて言ってないよ? 家から通える職場。私、バイトもしたことないの。自分でお金を稼ぐ経験もない」

「お金なんて……! いくら欲しいの!」

「ママ、そうじゃない! お金が欲しいんじゃなくて……っ」

「なにを……何を言っているの!? ママには全然わからないわ! 佳乃にはなに不自由なく暮らさせてきてるのにお金が欲しいなんて……っ」

 ――ダメだ、ママにはもう私の声が届かない。私の思いや考えなんかママにはわからないのよ。

 その思考に辿り着いて、パパに視線を向けると渋い顔だ。パパは私の言いたいことがわかってくれているのはその表情で理解できる。ただ、素直に首を縦に振ってくれそうにはないけれど……。

「パパ、私もう23歳になる。もっといろんな世界を見たいの。そう思うことはそんなに間違ってる? 私のためにはならないこと? 知りたいと、思うことは私のためにならないのかな」

「……佳乃」

「ちゃんと、わかってる。将来のこと……この家のために私がしないといけないことは……ちゃんと」

 跡取りを迎える、そのために費やしてきた時間がある。それを無視するつもりなんてない。ないけれど……。

 ――普通の暮らしがしてみたい。

 ギュッと下唇を噛んでパパの言葉を待つ。すぐ横でママはずっとパパにやんや言い分を訴え続けていたけれどパパはずっと渋い顔だ。

「あなた!」
「お前は少し黙りなさい」

 ピシャリと言われてママも唇を噛んで悔しそうに震えている。いつも優しいパパにキツイ口調でたしなめられて若干泣きそうな顔をしている。パパは基本甘い人なのだ。滅多なことでは怒らないし、理不尽なことも言わない。いつも家族の意見をできるだけ尊重してくれる。そんな人だから……。

「お願い、パパ。自分にできること、やってみたいの。それはきっとこの家の将来にだって意味があるって信じてるし、意味があることにするから」

 だからお願い――。
< 5 / 74 >

この作品をシェア

pagetop