箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
「なんだ? 聞かせてみろ」

「今回のプロジェクトで調べた調査結果のまとめです」
 
 現地調査、再開発後の地価推移、観光動線の改善案……それらをまとめた資料を一部差し出した。

 海外で手がけてきたリゾートモデルを、日本の地方へ落とし込む。高付加価値、富裕層向け、インバウンド需要を主軸にした計画。どれも間違ってはいない。だからこそ、誰も異を唱えていないのだ。けれど、机上の数字と現地の現実は必ずしも一致しない。それが調査したことでハッキリと見えていた。

「現地調査の動線図ですが、このエリア――再開発後、観光導線と生活導線が完全に重なります」

 壁面に映し出された地図を示すと、貴政は軽く頷いた。

「そんなことは分かっているし、再整備で解消できる」

「短期的には、です」

 言い返す俺に片眉をあげる貴政だが、俺は続ける。

「この地域は代々の地主が多く、農地転用も含まれています。生活道路が分断されれば、必ず反発が出ます。説明会と補償で抑え込むことは可能でしょうが……着工遅延のリスクは、最低でも半年。報道が絡めば、不動産価値は一時的に下落します」

 その言葉に空気がわずかに張り詰めた。何か言いたげだった貴政はなにも反論しない。ただ資料に目を落とし冷静に考えて整理しているようだ。

「海外案件だと問題にならなかった部分だな」

 貴政は不服そうだが、静かにそう言う。

「はい。国内だからこそです。割と声をあげるタイプの地主みたいです。まして今回は、不動産財閥との共同事業ですから……」

 父が、じっと見つめて顎でしゃくって言ってくる。

「続けろ」

「兄さんの計画は、成功すれば大きい。ただ……万が一、失敗した場合。嫡男である兄さんが前に立つのはリスクが大きいのではないかと思います」

 それは批判ではなく事実、俺の本音でもある。そしてプライドの高い貴政がそんなリスクを絶対背負いたくないだろうことも性格的にわかるからこそ。

「後妻の子である俺が前面に出れば、最悪の場合でも切り離しが効く。企業としての損失は最小限に抑えられます」
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