箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 俺の意見に貴政が、わずかに目を細めた。

 反発でも、怒りでもない。頭の中で算段しているのが目に見える。自分のメリットを、最善で最高の道を貴政が選ばないわけがない。

「この案件は、まずは失敗しないことが重要です。少なくとも初動は、私が引き受ける方が合理的だと考えます」

「……保険として、というわけか」

「はい」

 うなずく俺を父はしばらく黙って見つめていた。資料に目を落とし、数字を追いつつ地図を見つめたままだ。

「後妻の子である私なら、失敗した場合でも切り離しが容易でしょう。兄さんの立場を傷つけずに済む」

 その気持ちも事実だった。現にふたりともすぐには否定してこない。


「提携が軌道に乗った段階で……必要であれば、主導権を兄さんに戻す。その判断は、父さんに委ねますが俺はそれで構いません」

「巳波側がどう判断するかだが……しばらく娘を監視していたお前から見て、どうなんだ? うまくやれるのか? 貴政との見合いになると娘もわかるだろう。職場で絡んだ柊也が相手になってすんなり受け入れそうか?」

「割とうまく関係は作れたんじゃないかと思いますよ? 少なくとも、向こうから拒絶されることはないでしょう。日常業務でも、俺の意見は素直に聞いていました」

「へぇ? 向こうはお前が玄野の息子だと知ってるんだよな?」

 貴政の問いに首を傾げて答える。

「どうでしょう? そんな風に感じたことはないですね。まして自分も親戚と偽り仕事をしているんだからわざわざ言わないでしょ。そんなに頭の悪い子ではないですよ。仕事もとても真面目です。感情論に走らず話ができる相手です。だからこそ、俺が適任かと」

「だからこそ?」

「感情的な摩擦は、兄さんが前に出るより少ないんじゃないかな。兄さんはちょっと……威圧感があるから」

 皮肉で返したら明らかに表情が変わった。そして噛みつくように言ってくる。

「言ってくれる。ならお前がやってみたらいい、そのお嬢さんを手なづけてプロジェクトの成功まで導けるか……どこまでやれるか見せてみろ。巳波サイドも次男だからこそ、迎え入れやすく扱いやすいかもしれない。成功すれば大きな見返りがある……ただまぁ、お前が選ばれればの話だけれどな」

 俺はその、扱いやすい立場を逆手に取る。ずっとそうやって扱われてきたからこそ。

「俺もそれなりに()()()()()んで……しっかりやってみせますよ?」
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