箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
「巳波社長に、直接お伝えしたいことがあり伺いました。お時間とっていただけないでしょうか。FJリゾーツの玄野です、名前を伝えていただければわかっていただけるかと」

 本社ビルの受付で、食い下がるように告げた言葉だったがあっさりそれは断られてしまった。
 
「申し訳ございません。今秘書の方にも確認を取りましたが、社長はあいにくこれから外出の予定でして。アポイントのないお客様はお時間を作るのは難しいとのことでございます」

 事務的な微笑みとともに返された言葉に、俺は奥歯を噛み締める。

 やはり、正攻法では門前払いをくらう。だが、引き下がるわけにはいかない。
 
 俺は受付を離れる振りをしながら、エントランスのロータリーに目を向けた。黒塗りのセダンがアイドリング状態で待機している。
 
 ――地下駐車場から出るのではなく、正面から出るのか。それなら……。
 
 俺はビルの裏手に回り、車が必ず通る私有道の出口へと急いだ。やがて、重厚なセダンがゆっくりと近づいてくる。俺は歩道から一歩踏み出し、車を止めるのではなく運転席の秘書へ向かって深く、真っ直ぐに頭を下げた。

 心臓の鼓動が耳の奥でうるさいほど鳴り響いている。不審者として排除されるか、無視されるか。けれど車は止まってくれた。エンジン音が鳴る中、後部座席の窓が静かに下りて俺は息を呑んだ。
 
「アポなしとはなかなか度胸があるな。伝えたいことは……佳乃のことか?」
 
 車内からジッと見上げられてその真っ直ぐな瞳に負けぬよう、もう一度息を呑み俺は頷いた。
 
「はい。失礼は承知の上です。でもどうしても、今日僕の口からお伝えしたいと。しなければならないと思い参りました。少しで構いません、お話させていただけませんか」
 
 巳波社長は時計に目を落とした後、再び俺を見る。
 
「……走りながらでいいなら聞こうか。乗りなさい」
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