箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 巳波社長はしばし黙ったあと、小さく吐息をつくとフッと口元を緩める。それは馬鹿にしたような表情には見えなかった。どこか満足げな、微かな笑みを浮かべている。
 
「……ふっ、ははは。玄野の家に、こんな面白い男がいたとはな。その気持ちは佳乃は知っているのか?」
「……なにも、伝えられていません」
「そんな大事な告白を先に私にするな」

 それに一瞬俺も呆気にとられるもののなにと返せばいいかわからず口を噤むと、巳波社長は堪えていたかのように声を上げて笑いだした。笑われて肩をすくめることしかできない俺に巳波社長は言った。
 
「君が書いたあの佳乃に対しての丁寧な報告書……あれを読むほど、一度君と話をしたいと思っていた。佳乃をよく見ていてくれるのだなと、そこも感心していた。バスの話は面白かった」

「……バスくらい、乗せてあげてください」

「バスジャックにあったらどうする」

 日本でそんなこと早々起きるかよ、は喉元まで出て飲み込んだ。巳波社長は視線を前に戻すと、運転席の秘書に短く指示を出した。
 
「そこの駅で降ろしてやれ」

「かしこまりました」

「柊也くん」

「は、はい」

 いきなり名前を呼ばれて驚いた。そんな俺に社長も噴き出す。

「私の本音も言おう。この見合いの相手は迷っていた」

 ――え?

「経営者として、玄野の海外リゾート開発力は喉から手が出るほど欲しい。しかし見合いとはいえ佳乃を大事に想う相手と添わせてやりたいと思うのは親として当然だ。その相手に、貴政くんは経営者として巳波財閥にとっても強みになるだろう。ただ彼の持つ強欲ぶりは敵も作る。佳乃がなにひとつ意見も言えない嫁になるのが目に浮かぶ。そして君の報告書を見るほど興味が湧いた、柊也くん……君に」

「……でも、僕は……」

「後妻の子……あるいは妾の子か。それが君の自己肯定を狭める理由だな?」

「……」
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