箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 巳波社長が俺の出生理由を知らないわけもなく、図星だ。言葉を失いながら座席のシートを握りしめていると言われた。
 
「柊也くん、君はちゃんと玄野の血を引いている。そこを恥じることはない。そして経営者の眼から見させてもらえば、血筋などというものはただの結果に過ぎん。大事なのは人間性、そこに何を詰め、どう生きるか。貴政くんにないものが君にはちゃんとある」
 
 駅のロータリーに滑り込んだ車が止まったとき、真っ直ぐに俺を見た。

「佳乃が笑わなくなった」

「……」

「笑っているが抜け殻のようだ。何を言っても何でもいいの一点張り。私もあんな佳乃を見続けるのはつらい。そこに望まない婚約をさせて正直胸も痛い」

 そう呟く声の色は切なげで、娘を愛する父親の悲痛の声に聞こえる。

「口先だけじゃなく、あの子を幸せにすると私に誓えるか。幸せにするは、どう言う意味だ? あの子を心から笑わせることが君にできるか」

「……」

「娘を幸せにする、そう言ってくれる男にしか娘をやりたくない」

 そんなふうに問われて答えなど決まっている。

「彼女に約束しました。自分が好きと思うものを一緒に探してやると。どこにでも連れてやる、そう約束しました。僕が……幸せにしたいです。僕が、もう彼女を泣かせたくない……!」

 そう決意の言葉を述べると、巳波社長は一拍置いてから深く頷いた。
 
「見合いの席は、柊也くんを指名する。貴政くんには、私から直接断りを入れる」

「……本当ですか」

「君を信じる。だから君も今言った自分の言葉を裏切るな」

 その言葉が、熱い塊となったように胸の奥に落ちた。視界がわずかに滲むのを堪え、俺は掠れた声でポツリとこぼした。

「僕のような存在でも……そう言っていただけて、嬉しいです。ずっと、自分には何かを選ぶ資格はないと思って生きてきたので」

 生まれた瞬間から決められていたような立ち位置。それを当然のように理解してきた。俺は玄野の家に居る以上、誰かの代わりになるのだと。そんな俺を、一人の人間として認めてもらえた。その救いが、俺のなかの迷いを消し去っていく。
 
「……ありがとうございます。僕ももう迷いません。選ぶことを我慢しません」
 
 もう彼女を泣かせない。

「必ず僕が、佳乃さんを幸せにします」

 彼女の笑顔を取り戻したい、俺の手で。だから今度こそ、あの手を掴んで離さない。
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