箱入り令嬢ですが恋がしたいのです〜選ばれなかった御曹司に溺愛されて結婚します〜
 悲鳴と同時に視界がぐらりと揺れて、次の瞬間には腕の中だった。反射的にしがみついた私の手が、バスローブ越しに柊也さんの首周りに触れてしまう。

「あ、あの……っ」

「暴れたら落としちゃうからしっかり持って?」

「し、しっかり?」

 そう言われても戸惑う。どうすればいいのか、その迷いが行動に移らなくて襟周りをギュッと握り締めたら首筋や鎖骨が目に入る。また少し濡れたようなきめの細かそうな肌は雫を弾くようで。首筋の血管や喉仏を直視したらカァッと身体が熱くなってしまった。

「首の後ろに腕を回して? ちゃんとくっついててよ」

「は、はい……っ」

 低く落ち着いた声。叱るでもなく、笑うでもなく、ただ事実を告げるみたいな声音に、言われるがまま。ドキドキする胸を押しつけるように自分の腕を柊也さんの首の後ろに回したら近まる距離。

 抱き上げられた体勢が、思った以上に近い。胸と胸の距離がほとんどなくて、呼吸がそのまま伝わってくる。

 ――近い。

 抱き上げられたまま室内を歩かれると揺れて、そのたびに腕の力がきゅっと強まって、落とさないように、逃がさないように包まれているのがわかる。

「……重く、ない?」

「全然」

 即答だった。

「むしろ」

「……?」

「離したくない」

 ぽつりと落とされた一言に、胸がぎゅっと縮む。顔を上げると、柊也さんの優しい視線に見つめられて、どこに身を置いていいかわからなくなる。

 見なれないバスローブ、そこから香るのはいつもの柊也さんの匂いだけれど、なんだか今日は妖艶に香るのは気のせいだろうか。

 近さのせい? 放たれる色々なものに頭がぼうっとする。そんな私をベッドに降ろされたらスプリングが跳ねて、その勢いのまま柊也さんが上に覆い被さってくるから……。

「……佳乃」

 名前を呼ばれて、びくっと肩が跳ねた。

「もっと力、抜いて」

「む、無理ぃ」

「そんな感じだな」

 震える私の声に小さく笑うものの、腕は離されることはない。心臓の音が自分でもうるさいほどになっていく。逃げ場のない距離。でもそれは逃げたいのではなくて……。

「ドレス姿、綺麗だった。いつもは可愛いばっかりなのに大人っぽくて色っぽくて」

 そういう柊也さんのほうが、色気にあふれて戸惑うのだけど。

「綺麗すぎてどうしようかなって」

 視線が、ゆっくりと私の顔をなぞる。まるでそのときを思い出すように、確かめるみたいに。

「今日まで、触れないって決めてた」

 ――え?

「もう何回も無理かもって諦めかけて……正直きつかったけどなんとか耐えた。褒めてくれる?」

「え?」
 
 少し笑いつつも低く、真面目な声だ。冗談じゃないとすぐにわかる。

「我慢してた分……今、すごく欲張りになってる」

 額が触れそうな距離で、呼吸が絡む。キスはまだされていないのに、胸の奥がじんわり熱い。ドキドキ高鳴る心臓が口から飛び出しそうだ。

「佳乃」

「はっ、はい」

「好きだよ」

「……わ、私も、すき」

「もう我慢しないよ」

 柊也さんの手が頬に、首筋の裏にと触れてくる。くちびるが、自分のくちびるに触れそうなほど近い。息が重なり、溶けるように交わると感じたら……熱が重なった。
< 71 / 74 >

この作品をシェア

pagetop