カンズメ
文藝冬夏(ぶんげいとうか)社編集長、大久保は悩んでいた。
史上最年少・中学生芥川賞作家、中野阿佐(ナカノアサ)が受賞後にすっかり書けなくなってしまったのだ。

──暫く静かな場所で過ごして貰うか。

彼は新人編集者、神田をデスクに呼びつけた。

「神田君。中野阿佐先生をお連れして、弊社の保養地でカンヅメにして。原稿を仕上げて貰って来てくれ。
「えっ? ま、まだ、中学生ですよ!」
「責任は私がとる」
「は、はい」

数週間後、出社した大久保の机上には中野阿佐の新作原稿が置かれていた。
読み始めると、傑作だという事がすぐに分かった。
神田が出社して来たので満面の笑みで出迎える。

「素晴らしいよ」
「ありがとうございます!」
「ところで、中野阿佐先生は?」
「そちらに」

神田が顔を向けた先には缶詰が入った段ボールが一箱。

ラベルには『Ham(ハム)/中野阿佐』と記してあった。

わなわなと震える大久保の掌中、原稿の隙間から「家庭用缶詰製造機」の領収書がはらりと落ちた。

……………………………………………………………………………………

【解説】
「作家を缶詰にする」※

とは、出版社の施設、あるいはホテルや旅館に閉じ込めて外部との接触を断った状態にし、
執筆に集中してもらう行為です。

新人編集者の神田君はその業界用語を知らず、純粋に中野阿佐先生を「缶詰」にしてしまったようです。
無知は恐ろしいですね。
知らない言葉や不審なことがあれば一時の恥は捨てて確かめることが大切です。

それにしても最年少中学生芥川賞作家……あやかりたいものです。

(※「館詰め」とも)
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