『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました【短編】





 学園祭のパーティーの日がやって来た。

 シャルロッテとハインリヒは、お揃いの服で会場に足を踏み入れた。意外にも、ハインリヒが用意したのだ。
 彼の瞳に合わせた色味のドレスはやや古臭いデザインだが、その保守的な形が逆に彼女の洗練された美しい顔立ちを際立たせた。

 正直、母親が着るような一世代前のデザインに彼女が戸惑ったのは事実だが、それでも婚約者がこの日のために特別に仕立ててくれたのが嬉しかった。

 それに、

「今日は王太子殿下もいらっしゃるから、こういった古風なデザインが相応しい。君のためを思って作らせたんだよ」

 ……そう言われると、彼の言っていることが正しい気がしてきたし、彼は本当に自分のためを思ってくれているのだとも感じた。

 あの光景を見るまでは。


「嘘……」

 シャルロッテの膝がガクガクと震え始める。急激に寒気がして、嫌な汗が額に浮かんだ。
 ついに彼女は見てしまったのだ。

 パーティーでは婚約者同士として二人揃って王族や高位貴族に挨拶をして、それから一緒にダンスを踊った。
 その後は互いに友人たちと過ごそうと、しばらく別行動を取ることにした。

 シャルロッテはしばし学友たちと歓談していたが、疲労が出たのか不調を感じたのでハインリヒに帰宅を告げようと彼を探した。

 シャンデリアの輝くきらびやかな会場に彼の姿はなく、彼女は外に出て庭のほうを探した。
 まだ明かりの届くベンチには婚約者同士と思われる男女のカップルが数組いたが、彼はそこにもいなかった。

 彼女が途方に暮れていると、

「もうっ、ハインリヒ様ったら」

「ははは。ローゼが可愛いすぎるからだよ」

 闇の奥から、婚約者の声が聞こえたのだ。

 なにやら楽しそうな弾んだ声に、シャルロッテは卒然と嫌な予感が胸をざわつかせた。
 見に行かないほうが良いと、本能的に思った。だが好奇心は抑えられずに、彼女は忍び足で声のほうへ向かった。

「!?」

 そこには、婚約者と一人の令嬢がいた。
 シャルロッテはそれがローゼ男爵令嬢だとすぐに分かった。彼女は多くの高位貴族の令息に手を出していると、令嬢たちのあいだでは有名だったのだ。

 まさか、自分の婚約者に限って……と、にわかには信じられなかった。
 しかし、二人は糸を引くようなキスをして、さっきエスコートしてくれた彼の手が彼女の太腿に触れて……。

「っ……!」

 そのとき、シャルロッテとハインリヒの目が合った。


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