『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました【短編】
「ね〜え?」
ローゼは上目遣いでハインリヒを見る。少し挑発的な様子は、彼の皮膚を刺激した。
「なんだい?」
「またシャルロッテさんとお話していたの?」
「仕方ないじゃないか。あれは一応、僕の婚約者だし」
「ハインリヒ様の恋人はあたしなんだもん」
「それは、そうだけど……。貴族としての体裁が、ね?」
さらにムッと頬を膨らませる恋人が可愛くて、彼は咄嗟に首筋に口付けた。「んっ……」と彼女が反応すると、彼は唇に深くキスをする。
舌を絡ませながら、彼は「なんて尻軽な女だろう」と彼女を軽蔑する。
きっと、他の男にも同様のことをやっているに違いない。汚らわしい女には違いないが、その艶めかしい可愛さは彼の心と身体を興奮させる。
こういう女が、最高の浮気相手になるのだ。
それに比べてシャルロッテは、自分に従順で、貞淑で、貴族令嬢としてなんて立派なのだろうか。
やはり妻にするのなら、ああいった女がいい。
家柄はもちろん、高い教養に、人目を引く顔とスタイル。位の高い自分の、生涯の伴侶として隣に置くのは、彼女しかいないと思った。
ハインリヒはシャルロッテの美しさを知っていた。他の令息たちが、恋い焦がれるように彼女を見ていることも。
だから、男の自分から見ても、眉をひそめるような野暮ったいドレスを着せた。
令息たちから遠ざけるために、会話のきっかけになる学問にも触れさせないようにした。
趣味の活動も、女だけしかやらないようなことをさせた。
シャルロッテは、己の成功した未来を確立させるための、最高の戦利品だったから。