『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました【短編】
◆
あの日から一年。学園の卒業式の日がやって来た。
「さぁ、行こうか、シャルロッ――なんだ、そのドレスは?」
ハインリヒは顔をしかめる。
彼は卒業パーティーで婚約者をエスコートする義務があるので、シャルロッテのもとへ赴いた。
そうしたら、肩を露出し、身体の線を拾うマーメイドドレスを着た彼女の姿があったのだ。
シャルロッテは嬉しそうに笑顔を見せる。
「素敵でしょう? わたくしに似合うドレスを仕立てていただいたの」
「なっ……」
ハインリヒはみるみる気色ばむ。あんなに従順だったシャルロッテが反抗するような態度を見せて、ひどく裏切られた気分になったのだ。
「いつものドレスはどうした? こんなに肌を露出して、まるで娼婦じゃないか! 早く着替えて――」
「こんなところにいたのか、シャーリー」
そのとき、二人の背後から、朗々とした青年の声が聞こえてきた。
すると、シャルロッテが顔を綻ばせながら振り返る。
「エド様!」
声の主は、エドゥアルト王太子だった。彼は当たり前のように彼女の手を取って、その甲に軽く口づける。
「お忙しいから、今日はいらっしゃらなくても大丈夫って申しましたのに」
シャルロッテは嬉しそうな態度を示しながらも、ちょっと意地悪な様子で言う。
エドゥアルトは茶目っ気たっぷりにウインクをして、
「君の晴れ舞台だからね。徹夜で仕事を片付けてきた」
「まぁ」
卒業式では、成績優秀者は表彰をされる。彼女は「自分のため」に学問に励み、見事にその座を掴んだのだ。
ちなみにハインリヒは男爵令嬢と遊び歩いたツケが回って、平均以下の成績だった。
「今夜の君は本当に美しい。眩しすぎて心臓がどうかしそうだよ」
「ありがとうございます。エド様が贈ってくださったドレスのおかげですわ」
「君に似合うデザインを仕立て屋に何度も相談した甲斐があったな」
ドレス――という単語に、ハインリヒの停止していた意識が急浮上した。
弾かれるように、にわかに彼女の腕を掴む。
「ドレスだって!?」