『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました【短編】





 あの日(・・・)から一年。学園の卒業式の日がやって来た。

「さぁ、行こうか、シャルロッ――なんだ、そのドレスは?」

 ハインリヒは顔をしかめる。
 彼は卒業パーティーで婚約者をエスコートする義務があるので、シャルロッテのもとへ赴いた。
 そうしたら、肩を露出し、身体の線を拾うマーメイドドレスを着た彼女の姿があったのだ。

 シャルロッテは嬉しそうに笑顔を見せる。

「素敵でしょう? わたくしに似合うドレス(・・・・・・・・・・・)を仕立てていただいたの」

「なっ……」

 ハインリヒはみるみる気色ばむ。あんなに従順だったシャルロッテが反抗するような態度を見せて、ひどく裏切られた気分になったのだ。

「いつものドレスはどうした? こんなに肌を露出して、まるで娼婦じゃないか! 早く着替えて――」

「こんなところにいたのか、シャーリー」

 そのとき、二人の背後から、朗々とした青年の声が聞こえてきた。
 すると、シャルロッテが顔を綻ばせながら振り返る。

「エド様!」

 声の主は、エドゥアルト王太子だった。彼は当たり前のように彼女の手を取って、その甲に軽く口づける。

「お忙しいから、今日はいらっしゃらなくても大丈夫って申しましたのに」

 シャルロッテは嬉しそうな態度を示しながらも、ちょっと意地悪な様子で言う。
 エドゥアルトは茶目っ気たっぷりにウインクをして、

「君の晴れ舞台だからね。徹夜で仕事を片付けてきた」

「まぁ」

 卒業式では、成績優秀者は表彰をされる。彼女は「自分のため」に学問に励み、見事にその座を掴んだのだ。
 ちなみにハインリヒは男爵令嬢と遊び歩いたツケが回って、平均以下の成績だった。

「今夜の君は本当に美しい。眩しすぎて心臓がどうかしそうだよ」

「ありがとうございます。エド様が贈ってくださったドレスのおかげですわ」

「君に似合うデザインを仕立て屋に何度も相談した甲斐があったな」

 ドレス――という単語に、ハインリヒの停止していた意識が急浮上した。
 弾かれるように、にわかに彼女の腕を掴む。

「ドレスだって!?」
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