『君のためを思って』と婚約者に言われ続けたので『自分のため』に生きることにしました【短編】
「きゃっ!」
突然の大声に、シャルロッテもエドゥアルトも目を見開いて動きを止めた。
二人から刺すような視線を浴びてハインリヒは一瞬だけたじろいだが、怒りの感情ほうが上回って我を忘れて声を荒げる。
「シャルロッテ、これは一体どういうことだ!? 君は僕の婚約者だぞ! なぜ、王太子殿下のドレスを着ている!? おかしいだろ! これは、不貞じゃないのか!!」
「それは聞き捨てならないな」
王太子は公爵令息とは対照的に、冷静な様子で言い放った。
「は……?」
「不貞を行っていたのはお前のほうじゃないのか?」
「そっ……」
ハインリヒは言葉に詰まってから、責めるようにシャルロッテを睨み付けた。
しかし彼女は、彼に許しを請うどころか馬鹿にするように鼻で笑う。
「エド様のおっしゃる通りですわ。公爵令息様こそ、男爵令嬢と不貞をなさっていたのではなくて?」
婚約者の冷ややかな様子は、これまでの柔らかな態度とあまりにもかけ離れていて、彼は身体を強張らせた。
エドゥアルトは首を傾げて、
「ハインリヒ公爵令息の不貞により、シャルロッテ侯爵令嬢とは半年前に婚約破棄が成立している。父君から聞いていないのか?」
「えっ……」
そんなの、聞いていない。
ハインリヒは未知の情報についていけず、顔を真っ青にさせてただ口をパクパクさせるだけだった。
「そういえば、公爵閣下は大分お怒りの様子でしたわ。たしか……卒業式が終わったら直ちに屋敷から叩き出すっておっしゃっていましたっけ?」と、シャルロッテはくすりと笑う。
「えっ……」
「そうか。たしかに公爵は弟のほうを後継にすると言っていたな。学園の卒業まで待ったのは息子への恩情かもしれないな」
「えっ……」
「でも、安心してくださいませ公爵令息様? 公爵閣下は、男爵令嬢の件は責任を取らせるともおっしゃっていましたわ。きっと二人は結ばれますよ!」
「えっ……」
衝撃の事実の怒涛の告白に、ハインリヒは思考がついていかなかった。