Bella Notte
 顔を上げた先には、先ほどの威圧感がすっかり抜けてしまった黒田さんの表情がある。
 と言うよりすこし呆れたように。

「あなたは、これを受け取る権利があるし、何も悪くないのですよ」

 そう言われても、事実は変わらないし、こうしないと自分が自分でいられないような気がして。

「いいんです。お2人が幸せになっていただければ、それで」

 そういって微笑めば、黒田さんの動きが止まってしまった。
 何故かしばらく謎の沈黙に包まれる。
 若干赤い顔をしているようだ。

「そうですか、それでは示談書を作成しなおした後、ご連絡差し上げます」

 そう早口で言って一礼して、車へ向かって歩き出した、と思ったら。
 振り返って速足で目の前まで戻ってきた。

「すみません、ご連絡先を伺ってもよろしいでしょうか」

 スマホをとりだして、メッセージアプリの友達追加機能でつながる。

(友達ってわけでもないけれど)
 そんなどうでもいい事を考えていると。

「東京へ戻られたら一度ご連絡ください」

 たしか示談書ができたら連絡くれるのではなかったのかと首を傾げながら。

「分かりました」
 と素直にうなずく。
 するとなぜか、そっぽを向いて口元を押さえながら
「それでは、また」
 と少しふらつきながら去っていく。

 挙動不審な人だな、と少しだけおかしくなってしまった。
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