Bella Notte
 黒塗りの高級車が走り去るのを見送った。

「慰謝料って……」
 まさか自分の人生でその言葉に出会う日が来るとは思っても居ない。

 深呼吸して、気持ちを切り替えようとした。
 
(お昼はシーフードパスタと海藻サラダ、かぼちゃのポタージュを作って、夜は健人君の好きなハンバーグに目玉焼きを乗せて……大人様ランチでも作ってみようかな)

 冷蔵庫の中を確認しようと、油断すると惨めさに泣きそうになりながら自宅のドアを開けた。

「それで、昼間の弁護士は大丈夫だったのかな」

 潮騒の音を聞きながら。

 静かな月光に照らされた木製のデッキの焚火台で暖をとり、布張りの木製チェアに身を任せ、お風呂上がりの紅茶を2人で楽しんでいた。

 健人君が隣で少し身を起こしてこちらを覗き込むようにして心配してくる。

「大丈夫だったよ。元カレの婚約者さんが、弁護士を通して話してきただけだから」
 そういって微笑む。

「……そう?楓ちゃんの事は信頼しているけれど、あの元カレはそうじゃなかったから」

 メッセージアプリで一度だけ、彼と一緒の写真を送ったら健人君から元カレへ電話で挨拶までしてくれて。

 あの短いやり取りの中で彼の本性を見抜いたのだとしたら、凄いとしか言いようがない。

「どうして分かったのって顔だね」

 そう言って、優しく頭を撫でてくれた。
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