Bella Notte
 少し懐かしい気持ちに浸りながら、家主を探さなくてはとドアノブに手をかけた。

「痛っ」
 開かれたドアに思い切り頭をぶつける。

「ごめんなさい、楓先輩」
「大丈夫、こっちこそゴメンね。疲れて限界だったから。迷惑かけて……」

 手を合わせて頭を下げる。

「いや……桜井センパイには悪いけど、自分の部屋に楓先輩がいるって結構クるものが……」
 そういう表情がちょっとだけ怖い。
「本当にありがとう、すぐ帰るから」

 そう言って部屋を出ようとすると、何故か後ろから囲われる様にドアを閉められた。

 驚いて振り向きつつ見上げると、真剣な表情の藤ちゃんがいる。

「ダメ、今帰ったら危ないから」
 そう言って熱を持った視線を絡ませてくる。

「うん、それはわかるけど。大丈夫何とか切り抜けるから」
 本当は全然大丈夫じゃないって分かってるけど、今はこの空間の方が危ない気がする。

「ね、本当に桜井が頼むって言ってたの?」
 彼の性格上、例え後輩でもそんな事を頼むとはどうしても思えない。

 無言のまま、視線を逸らさない。
 それはYESなのかNOなのか。

「いいえ、本当はそんな事言われてないです。てか、言うはずないですよ。俺が楓先輩の事、昔から好きだって気づいてたみたいだし」

 さらっととんでもない事を言って、今まで見たことのない男の人の顔で笑う。

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