Bella Notte
 あの青い空の下、白球を追いかけていた井川君を見つめていた時よりも。

「とにかくここじゃ落ち着かないから、行こう」
 手を引かれて、ブルーのアウディTTのドアの前まで連れてこられて。
 スマートにドアを開いた。
「どうぞ」
 と言われては断ることもできない。

 車内はドアが閉まれば密室で逃げ場がない。
 桜井が乗り込んでくると一気に緊張感が高まり、いつもは気にならなかったその距離感が近すぎると感じてしまう。

 深くかぶっていたフードを脱いで、車のエンジンをかける。
 ただそれだけなのに高鳴っている心臓はさらに鼓動を速めた。

 無言で運転するその横顔に見入ってしまう。
 桜井が好きだと気付けた、そのタイミングがあのキスの後で。

 罪悪感が心を蝕み始める。
 ネットニュース界隈を賑わせているゴシップ記事もある。
 このまま側にいると何も考えずに答えていいのだろうかと不安になる。

(桜井に迷惑かけたくない)

「何、見とれた?」
 ふと流し目でこちらをみやり、はにかまれては。
 密かに心の中で卒倒しそうになりながら、真っ赤になった顔を背ける。

「そんなことないよ」
 精一杯の強がりは全部見抜かれている気がする。
 心を落ち着かせようと小さくため息をついて、車窓を流れる景色に視線を集中させる。

「明日は休み?」
 ふとそう聞かれたので、予定を思い返す。
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