Bella Notte
 キッパリとそう伝えると、ふと藤ちゃんの興奮が少しだけ落ち着いた。

 後ろ手にドアノブに手をかけた所で。
「荷物は玄関に置いてあります」
 少しだけ物憂げな表情で呟きながら微笑んできた。

「藤ちゃん、ありがとう」
 そう言って部屋を出た。


 部屋を出た後エレベーターに乗り込み、震える手でスマホの電源を入れた。
 エレベーター内は無人で思わず座り込んでしまい。

 (藤ちゃんまで好きって……全然気づかなかった)
 可愛い後輩が、大人の男の色香全開で迫ってくる。
 しかもピンチに嘘までついてって。

(いや、私がちゃんと彼の事見てなかったからだ)
 言葉の端々、態度。
 思い返せばそうだと今になって気づく。

(どんだけ鈍感なのよ)
 今更後悔しても、どうにもならない。

 そこへ、知らない番号からまた着信が入る。
 エレベーターが1階へついたので、マンションのエントランスでそのまま話すことにした。

「はい」
 そう言って話し出すのを無言で待つ。

「こんばんは、弁護士の黒田です」
 意外な人からで。
「示談書へのサインありがとうございました。確かに受け取りましたとご連絡です」
 事務的な話に少しだけ混乱した気持ちが静かになりつつあって。

「そうですか、お電話ありがとうございます」
 そう答えると一瞬間が空いて。

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