Bella Notte
 ―――― それなのに、今の彼は辞めるってあっさり伝えてくる。

 その答えにたどり着くのにどれだけ悩んだのか想像はついている。
 だから私は答えなくてはならない。


 桜井は相変わらず忙しそうだ。
 それでもこの話は今しなくては、取り返しのつかない事になると分かっている。

 「桜井、ちょっと話そう」
 そう言ってソファーへと座った。

 「ごめん。気持ちには応えられない」
 間髪入れずにそう伝えると、その表情が歪む。
 心がバラバラに引きちぎられそうになりながら。

 「だから、この部屋も今すぐ出ていくね」
 油断するとこの営業スマイルはあっけなく見抜かれてしまう。
 それ程に桜井は1秒たりとも目線を逸らしてはくれない。

 ため息を1つついて。
 「楓、侮らないで。何年君を側で見てきたと思っている?」
 分かってる、私が逆の立場でも桜井の考えそうな事は分かってしまうから。

 「分かっているなら、お願い。このまま私をここから出して」
 泣かない。泣いたらきっと全部話してしまう。
 その大きな腕の中で、ずっとずっと好きだと伝えてしまう。

 「俺は嫌だけど……それが楓の出した答えなら」
 長い付き合いだからこそ、言葉にしなくても分かってしまうのがこんなにも切ないなんて。

 「じゃあ、もう行くね。」
 そう言って、そそくさと部屋を後にした。
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