Bella Notte
 「ん?俺の別荘。と言っても、海の上の小さな島にあるけど。ここ以外は人がいないから安心して」
 その言葉を聞いて時が止まる。
 「は……?」
(いや、それは全然安心できないよ。桜井)

 言葉に出さなくても言いたいことが分かったようで、しばらく笑いながら。
 「もう、本当に逃げられないよ」
 軽く伝えられる事実に身震いしながら。
 「ごめん」
 そう伝えると桜井の頬が一瞬引きつる。

 「ごめんね、ちゃんと話そう。こんな事するまで私が追い詰めたんだよね」
 そう言って見つめると、盛大なため息をつかれる。
 
「いや、それちょっとズレてるっていい加減気づいてよ」

 その瞳には燃えるような熱が込められている。

 「楓は関係ない。俺がそうしたくてしているだけ。ただの我儘」
 そう言って少しだけ寂しそうに笑う桜井の言葉に、何も言い返す事ができない。

 「楓、仕事の事はちゃんと考えて答えを出してる。辞めるとかじゃないから。俺の事そんなに信じられない?」

(違う、そうじゃなくて)
 慌てて両手を振りながら。
 「そうじゃなくて、桜井の夢の方が私の幸せより大切だって……」
 そこまで言ってしまって、しまったと気付く。

 桜井の瞳がこれでもかと見開かれて。
 「……楓、それって意味わかってる?」
 声が少し震えながら、ベッドを下りて近づいてくる。

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