Bella Notte
 たまらなくなって楓を抱き寄せて、ワインとスパイスの香りに2人包まれて暖かな愛を交わす。

 楓の目じりから一筋涙が溢れて、頬を濡らせばそれを優しく掬ってくれる。
 優斗が口を開こうとしたその時。

 「実はね、優斗。話しておかないといけないことがあって」
 2人の今後を話し合うには、この事実は伝えないと、と。

 「私、イギリスへ移住することにした」

 ポケットの中の小さな箱に指を添えたまま、楓の言葉が何度も頭の中に響く。

(……イギリスに?楓が?)

 言葉にできないまま、ただ楓の瞳を見つめる。
 さっきまで涙ぐんでいた瞳が、今は意思を伝えようとまっすぐに見つめ返してくる。

 「ごめんね、こんなタイミングで」
 
 「……いつから決めてたの?」
 ようやく絞り出すように声を出すと、楓は少しだけ目を伏せて答える。
 「あの報道の最中に、色々考えて……優斗の夢の足手纏いにはなりたくないって。それだけが理由じゃないけど、何かを変えたくなったんだ」

 行き場を無くした優斗の決意が、空しくポケットの中。
(今は渡せない)

 この瞬間に渡してしまったら、楓の決意を『引き止めるための言葉』になってしまう気がして。

(楓にも夢があるって分かってただろ)
 いつまでたっても話そうとしない優斗を心配そうに見つめてくる。
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